「小ざさ」は、なぜ「虎屋」に
ならなかったのか?
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。雑誌「READING LIFE」編集長。プロカメラマン。小説家。劇団天狼院主宰。映画『世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~』監督。ライター・編集者。著者エージェント。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月、『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を出版予定。
NHK「おはよう日本」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、雑誌『商業界』など掲載多 数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。
おそらく、たとえば和菓子屋の「虎屋」のように多店舗展開するチャンスはあっただろう。
けれどもそうさせないのは、持続可能性を重視したからだろう。
つまり、あえて「アトモスフィア」の形成、つまりはより大きな人にアプローチすることを望まなかったということだ。
もし拡大戦略を取れば、「小ざさ」はどうなっただろうか。
おそらく、今のような行列を全国各地で担保することはできなかっただろうから、「マーケティング」に「費用」を割かなければならなくなっただろう。最悪の場合、「コンテンツの質」を担保できなくなったかもしれない。
もしかして、「営業」「広告」「PR」が必要になったかもしれない。
つまり、あえて拡大戦略をとらないことで、圧倒的なマーケティングにほとんど戦力を割かなくていい状態を戦略的に保ち続けたのではないか。
こうした「需要過多」の状況を保ち続けることによって、マーケティング・コストは、限りなくゼロに近づけることができる。
呼び込みも、チラシ配りも必要ないので、無駄な「労働工数」を割く必要はなく、働く人は、効率よく、利益につながる仕事に従事することができるようになる。つまり、極めて「労働生産性」が高くなる。
また、「行列化」することによって、「広告」などの費用が発生しないので、経費的な意味においても、マーケティング・コストを節減できることになる。
すなわち、「圧倒的な商品」を開発することは、たしかに多大なコストを生じさせるものではあるが、長期的な視点で見れば、それは将来的な「マーケティング・コスト」のほとんどを削減できることになり、結果的に利益を増大させることになる。
「マーケティング・コスト」さえ削減できれば、組織は極めて高い「労働生産性」を発揮するようになるので、労働者に無理な負担を強いることにはならない。給与も十分に支給できるようになり、それが、ビジネスの「持続可能性」を高めることになる。
それは継続的な上昇螺旋の発動、すなわち「スパイラル」の維持の主たる要因となり、「スパイラル」の維持は、同時に「ブランド」の維持にもつながる。
つまり、「マーケティング・コスト」を極限まで抑えることができる企業体質は、結果的に「ブランド」を担保することになる。