作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。幸福のインフラとなる、「金融資産」「人的資本」「社会資本」という3つの資本(資産)の有無で生まれる8つの人生パターンにすべての人が当てはまる。あなたの今はどの状態か?  そして目指すべき「幸福な人生」とは?

いまの時代の日本に生まれたことが「最大の幸運」である理由

人生は幸福になるようにデザインされているわけではない

 まずはきわめてシンプルな事実から語りはじめたいと思います。それは、

「あなたがいまここに存在することがひとつの奇跡」

 ということです。

 とはいえこれは、哲学や宗教、あやしげなスピリチュアルの話ではありません。父親と母親が出会い、2人の遺伝子からたまたまひとつの組み合わせが選ばれてこの世に生を受け、さまざまな出来事を体験し、多くの出会いや別れがあり、現在に至るまでには膨大な数の偶然の積み重なりがあります。この偶然を「奇跡」と呼ぶならば、これは誰でも知っている当たり前のことをいっているだけです。

 そうした偶然のなかでもとくに強調したいのは、

「いまの時代の日本に生まれたということが最大の幸運である」

 ということです。

 ここで、すぐにあちこちから批判の声が聞こえてきそうです。日本経済は四半世紀に及ぶデフレに苦しみ、非正規雇用やワーキングプア、ニートや引きこもりが激増して、若者はブラック企業で過労自殺するまで働かされ、老後破産に脅える高齢者には孤独死が待っているだけだ、というのです。

 私はこうした日本の現状を否定するわけではありません。しかしその一方で、この島国から一歩外に出てみれば、「下を見ればきりがないが、上を見るとすぐそこに天井がある」という現実にたちまち気づきます。

 国連は毎年、1人あたりGDPや健康寿命、男女平等、政治・行政の透明性、人生における選択の自由度などを数値化して「世界幸福度ランキング」を発表していて、その上位は北欧など「北のヨーロッパ」の国々が独占しています(それにつづくのがカナダ、オーストラリアなどアングロサクソンの移民国家です)。

 最近では「ネオリベ型福祉国家」と呼ばれるようになったスウェーデンやデンマークのリベラルな政治・社会制度はさまざまな面で日本よりすぐれており、雇用制度や教育制度など見習うことは多々ありますが、それを「幸福な理想社会」と呼べるかは別の話です。