僕から見れば、完成度の高いすごく“お得”な車だと思うし、作り手もきっとそう思っています。ただ、あの性能を解析して、「この値段で実現しているのはすごい!」って思える人って、今はもう僕のような車オタクと呼ばれる少数派です。かつてのようにみんなが車に強い関心を寄せる時代は終わってしまったわけですから、昔と同じ作戦では厳しいでしょうね。

「所有」か「利用」かは
大きな問題ではない

──そもそも自動車需要が低迷した理由は、どのようなところにあると思われますか。

 自動車産業が斜陽化していると考える人もいますが、僕はそうは思いません。昔ほどの勢いはなくとも、今も1社で何百万台もの自動車を販売しているのは事実です。ただ、消費者の自動車に対する捉え方が変わっているのは確か。理由は単純ではありませんが、一つにはコモディティ化によって、自動車がかつてのような輝きを持ったプロダクトではなくなってきていることでしょう。誰もが自動車を使えるようになった反面、憧れの対象ではなくなってしまいました。

根津孝太(ねづ・こうた)/クリエイティブコミュニケーター、カーデザイナー、プロダクトデザイナー。1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車に入社し、愛・地球博「i-unit」コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年に独立し、znug design(ツナグデザイン)を設立、自動車に限らない工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク「zecOO(ゼクウ)」の開発に取り組む一方、超小型モビリティ「rimOnO(リモノ)」、トヨタ自動車とコンセプトカー「Camatte(カマッテ)」などの共同開発も行う。2014年度よりグッドデザイン賞審査委員を務める。 Photo by Y.K

 今の自動車はフォーマットが決まりすぎていて、違いが分かりにくいんです。すると、ユーザーにとって車による自己表現が難しくなり、多くの人は「高級化」という一つの価値観にしか頼れなくなります。でも、今の若者には高級化していくこと自体がダサいと思われてしまうんですよね。

 もう自動車は、ステータスのために無理してまで買うものではなくなり、若者の興味の対象ではない。最近では新車よりも、iPhoneの新作が発表されたときのほうが騒がれます。

──若者は自動車を所有しなくても、カーシェアリングやレンタカーでいいというように価値観が変わってきていますよね。

 地方に行けば1人1台自動車を持っている地域もまだたくさんありますが、都市部においては自動車をそこまで必要としません。世界的にもUberのようにモビリティサービスの一つとして自動車を利用するという動きがありますし、今後も進んでいきます。

 なので、これからの作り手は、シェアされることを前提にモノづくりをしなければいけません。カーシェアの普及は、作り手にとってネガティブなことではないと思うんです。そこで気に入ってもらえれば、結果的に購入のきっかけにもなりますし。