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消費者庁が来春国会への法案提出を目指している、消費者救済のための新制度「集合訴訟制度」の原案が、大手企業を中心に波紋を呼んでいる。
そもそもは、不当契約や悪徳商法で被害を受けながら、裁判をせずに“泣き寝入り”する多くの消費者を救済するもの。当初は英会話スクール「NOVA」の授業料や大学の入学金をめぐる返還トラブル、悪徳商法などを想定。全国に九つある適格消費者団体が、将来の使用差し止め請求権に加えて、被害者を代表して損害賠償請求訴訟を起こせるようになる。勝訴すると、同条件の被害者に呼びかけ、一括して賠償金を得られる。
しかし制度検討の過程で、個人の名前や住所、クレジットカード番号など個人情報が漏れる「情報流出」も対象案件に浮上してきた。過去の判例などから1人当たり数千~数万円の賠償金が、集合訴訟になると、ケースによっては数万~数百万人に支払うことになる。たとえば今年4月、国内だけで743万人の情報流出があったソニーの場合は、最大1000億円程度に上る可能性もある。
影響の大きさに、業界団体からは「被害の有無など、個別性が強い」(経団連)など異論が噴出し、消費者庁も「どのように決着するか決まっていない」と先行きは不透明なままだ。
サイバー攻撃やハッカーによる外的な不正アクセスが急増している背景もあり、昨年の国内の情報流出件数は1679件、漏洩人数は557万人に上る(NPO法人情報ネットワークセキュリティ協会)。甘い情報セキュリティ管理は論外だが、新制度の中身についても、まだ“生煮え”のままだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)