要約者レビュー
仕事と家庭の両立は、難しい。子育ては予測できないアクシデントの連続だし、突然親の介護が必要になったりする。この、現代の最重要課題の1つを理知的に考察して、全米で注目を集めた書籍の、待望の翻訳版が本書『仕事と家庭は両立できない?――「女性が輝く社会」のウソとホント』である。
アン=マリー・スローター著、関美和 (訳)、352ページ、NTT出版、2400円(税別)
著者は、オバマ政権のクリントン国務長官のもとで、女性初の政策企画本部長になった人物だ。しかし、2年後、著者はそのポストを降り、地元の大学の教授職に戻ることを決断する。思春期で問題行動を起こすようになった息子と過ごす時間を優先したためだ。
すると周りの、特に同世代の女性の目が変わったという。著者は、「家庭のために仕事を諦めた女」と見られ、それとなく格下げされたと感じた。そのときの考えをまとめた、女性と仕事についての記事は話題を呼び、その記事をもとに本書が執筆された。
本書を貫くのは、「家庭を大切にする女性や、男性が世間に認めてもらえないのは、おかしい」という著者の想いだ。そもそも「仕事と家庭の両立」というフレーズは、なぜ女性のみの肩に負わされているのだろう。育児に積極的な男性が、出世コースを外されてしまうのはなぜなのだろう。著者は、仕事と家庭の両立に関する偏見や、性的役割分担の思い込みなどを明らかにしつつ、育児や介護などの「人の世話(ケア)」をもっと社会的に評価すべきだと提案する。さらに、そのために個人や企業がとりうる行動や、政策によってできることを指し示している。本書は、働く親はもちろん、働きやすい職場づくりに取り組む人が多くの示唆を得られる一冊である。 (河原レイカ)
本書の要点
(1) 女性が仕事に打ち込み、結婚相手をいくら慎重に選んでも、仕事と家庭のバランスはあっけなくくずれることがあるという厳しい現実がある。女性にも、男性にも、職場にも、性別にしたがって役割が違うといったような根強い思い込みがあることが、この現実を生んでいる。
(2) 現状を変えるには、仕事と家庭の両立の問題を女性の問題とするのではなく、育児と介護の問題ととらえなくてはならない。「人の世話(ケア)」に社会的な価値を置くことが重要である。
(3) 「ケア」を重んじる社会に変わるためには、女性だけでなく、男性も運動を起こす必要があり、職場の変革も必要だ。