これまで、日本人の働き方が世界と比べていかに特殊か、という話を書いてきました。じつはもう1つ、日本人に特徴的な価値観があります。それは「専念」を良し、とすること。

 辛抱強く1つのことを成し遂げることに価値がない、とは言いません。しかし、これも行き過ぎると思わぬ弊害を生みます。そして、それをよく表しているのが「家庭と仕事の両立」という言葉でしょう。

 考えてみれば、これは非常におかしな言い方です。「家庭と仕事」を両立させることは男女を問わず、当たり前のことだからです。

 にもかかわらず、日本のビジネスパーソン、とりわけ女性が働く場合は必ず、このことが強調される。

 これはいったい、どういうことなのでしょうか?

「専念」は思考の幅を狭める
「両立」はむしろ、ストレス解消にいい

 私がこのおかしさに気づいたのは以前、ワーキングマザーのインタビュー調査をした時でした。その頃は家事・育児をしながら働くことの大変さばかりが強調されていたので、働きながら子育てをするということが、本人にとってはどのような意味を持つものなのか、調べたいと思っていました。

 結果、わかったことがありました。それは、「両立」は意外なほどストレス解消に効果がある、ということです。

 多かれ少なかれ、みなさんも経験があることと思いますが、仕事ばかりしているとストレスが溜まります。そんな時、なにかほかのことをして、息を抜きたくなりますよね?

 じつは、これ、働くお母さんたちがいつもしていることなんです。

 仕事でストレスを溜めて家に帰ると、お腹を空かせた子どもが「お母さん!」と言って飛びついて来る。この瞬間に、彼女たちのスイッチが切り替わります。職場での嫌なことは忘れ、しばらくの間は家事と子育てに没頭する。しかし、子どもとばかり向き合っていると、これもまた、ストレスが溜まる。では、そのストレスをどこで発散するかと言えば、会社に行って仕事に没頭することで忘れるのです。