ついにBOSEもトゥルーワイヤレスイヤフォンを市場に送り込んできた。製品名は「SoundSport Free wireless headphones」。その名のとおりスポーツモデルで、雨や汗に耐えるIPX4の防滴性能が付き、スタビライザー付きの「StayHear+ Sportチップ」が装着される。

 残念ながらBOSEのお家芸たるノイズキャンセル機構はないが、同じスポーツモデルのみならず、ほかのトゥルーワイヤレスイヤフォンを脅かすのは、やはりその音にあった。

BOSE

 価格は税込2万9160円。今回は発売前にメーカーからデモ機をお借りできたので、そのレポートをお届けしたい。

大きめの本体でバッテリー長持ち

 イヤフォン外観は同社のBluetoothモデル「SoundSport Pulse wireless headphones」や「SoundSport wireless headphones」からケーブルを取り去ったようなイメージ。カラバリは2色で、ブラックとミッドナイトブルーが選べる。

BOSE
写真はブラック。側面のロゴ入りパネルは、光に当てるとゴールドメタリックにも見える
BOSE
バッテリー内蔵充電ケース。イヤフォン本体をマグネットで吸着し、逆さにしても落ちない。ケースの大きさは幅100×奥行き48×高さ38mm、重さは80g

 イヤフォン本体はスポーツモデルらしく、大柄な作り。重さも左右セットで18g(実測値は右9.1g、左8.8g)と、スポーツモデルとしても重い。その代わりバッテリーは長持ちで、2時間のフルチャージで連続再生最大5時間。小型軽量をうたう密閉カナル型のトゥルーワイヤレス機と比べれば倍は長い。

 付属のバッテリー内蔵充電ケースには、イヤフォン本体を2回フルチャージできる容量があり、15分間の充電でも45分間動作するとメーカーは言っている。実際に使ってみても、電源周りについてはまったく不満はない。

 ペアリングはスマートフォン本体での設定のほか、メーカーが無償提供するiOS/Android向けアプリ「Bose Connect」も使える。このアプリには、イヤフォンが行方不明になった際、最後に接続が切れた場所を表示する「ヘッドホンを探す」の機能もある。

BOSE
iOS版のBose Connect。自動オフタイマーや、音声ガイドの言語設定などもできる

優秀なBluetooth周りの性能

 左右イヤフォンの機能は非対称で、右イヤフォンに通話用のマイクがあり、単独でヘッドセットとして使えるデザインになっている。ステレオ接続にしても、通話音声や音声ガイドは右側からしか聞こえない。

BOSE
マイクポートと操作ボタンの付いた右ユニット。通話用のマイクはデュアルマイクシステムで周辺ノイズを抑制する仕組み

 マイクのために開いているポートには、撥水性のあるメッシュ素材が張られているが、やはり水圧がかかると弱い。よって耐水性能はIPX4の防滴まで、ということなのだろう。

 操作ボタンは右がシーソー式の3接点タイプ。前後を押して音量の操作、中央がマルチファンクションボタンで、再生一時停止、着信終話、SiriやGoogleアシスタントの呼び出しに対応する。

 左イヤフォン側にもボタンがあり、これで接続機器の切り替えができる。イヤフォン本体に7台までの接続設定が保存され、このボタンでそれら機器との接続を循環式に切り替えられる。スマホやタブレットなど複数の機器でイヤフォンを共用する場合、これはかなり便利に使える。接続中の機器名も音声で読み上げてくれる。

 Bluetooth周りの性能も優秀で、まずフェージングのような低級な現象とは無縁。左右間のドロップも含めて、音切れも少ない。もちろんゼロではないが、たまにドロップが起きると「ああ、そういえばトゥルーワイヤレスだったっけ」と驚くくらいの頻度でしかない。動画再生時の音ズレもごくわずかで、ミュージックビデオの再生でもストレスを感じない。

 が、もちろんいいところばかりでもない。

操作系と装着性は人を選ぶかも

 気になったのは右の操作ボタンが固いこと。ダブルクリックや長押しなどの操作にけっこう力がいるので、指の力が弱い女性にはつらいかもしれない。ここは実機を触って確認してほしいところ。

 イヤーチップは「StayHear+ Sportチップ」で、BOSEのほかのスポーツモデルにも使われているもの。このイヤーチップは耳に押し込むというより、耳孔の上に押し当てる感じで、スタビライザー付きの割に着脱性はいい。代わりに一般的な密閉カナル型より遮音性は低いので、そこはトレードオフと理解したい。

BOSE
StayHear+ Sportチップは、イヤーチップとスタビライザー一体成形品で、イヤーチップとスタビライザーはバラバラに交換できない

 もうひとつはフィッティングの自由度にある。このモデルの場合、イヤフォンと耳はイヤーチップ以外で接する部分がなく、かつ長めのノズルでイヤフォンのマスを外側に逃しているので、耳に重りをぶら下げた格好になる。したがってフィッティングはかなり重要だ。

 もとよりスポーツモデルは、靴のサイズやメーカー選びと似たようなシビアさがあると思うのだが、私の場合、このイヤーチップとの相性があまり良くない。付属するSMLの3サイズのうち、Mは外れにくいが、若干痛みを感じる。さりとてSではややルーズで、動くと外れやすい。

 音楽を聴くだけならSで十分なのだが、もし私がスポーツモデルとしてイヤフォンを選ぶなら、このモデルはいったん保留にして、ほかのメーカーも試してみたいところ。

 その際に悩ましいのが、やはり音だ。このモデルの良さは、スポーツモデルとしての機能性と同時に、今までのBOSEサウンドをしっかり踏襲しているところにある。

トゥルーワイヤレスでもあのサウンド

 トゥルーワイヤレスのスポーツモデルで対抗馬を挙げるなら、まず「Jabra Elite Sports 4.5」。こちらは税込価格3万2800円と少し高いが、IP67の防水・防塵性能や心拍計の内蔵など、スポーツモデルとしての機能はより本格的だ。

 もうひとつ挙げておきたいのが「Jaybird RUN」。こちらは税込価格2万5407円と安い上に、サイズはひとまわり小さく、重さも実測値で右8g、左7.5gと軽い。にも関わらずバッテリー持続時間は4時間もある。

 しかし、そこにBOSEのしっかり作り込まれた音を持ってこられると、どうしても印象は薄くなってしまう。今のところトゥルーワイヤレスは、仕組みを成立させるのがやっとの段階。音に関してはアベレージで妥協しているものも少なくないし、それがスポーツモデルであればなおさらだ。

 量感たっぷりの奥深い低域に、歪感の少ない高域が乗るあの感じ。しかも中音域の分離が良く、ボーカルが明瞭に聴こえてくるので、ただのドンシャリにもなっていない。単純に低域を上げて音圧感の高さを演出したイヤフォンは数多いが、大抵はパワーに頭打ち感が出てしまい、ダイナミックレンジの狭い平板な音になりがちだが、このモデルにはそうした薄っぺらさがない。

 スポーツモデルとしての機能や軽快感に優先順位があるなら、ほかを選ぶべき。しかし気分をあげる要素として音も大事というなら、BOSEで決まりだろう。

■Amazon.co.jpで購入



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ