ハーバード流交渉術では、問題の取り上げ方に目をつけるべきだと教えている。

 もし貴乃花親方が「ガチンコではない相撲が行われることがないようにしましょう」と正面からガチンコ議論を持ちかけても、角界からは「八百長は存在しないから議論ができない」といなされてしまう。たとえ相撲協会が問題を抱えていたとしても、こうした問題の取り上げ方では交渉は始まらない。

 今回は、大企業で若手役員クラスから「他企業で検査不正が相次いでいます。わが社でも不正を徹底的になくしましょう」と強い声が上がったようなものだ。しかし上層部にとっては「存在しない不正」は議論ができないわけだ。

「そこに触れたくない」という上層部の気持ちを汲み取ることも重要だ。これはたとえ話で考えるとよくわかる。仮に、政界で次世代を担う若手政治家から「スキャンダル報道が出ると選挙に影響します。閣僚と閣僚候補について不倫がないかどうか、定期的に調査しましょう」と提案があったとする。それに対して政党の幹事長だったら、自分が不倫などやっていなかったとしても、他の大物政治家を慮って、「そんなことやる必要はない」と反対するはずだ。

 あることを議論すると問題が起きる可能性がある。自分にとって不利益になるから、相手が反対する。だから交渉は頓挫する――。これが今、貴乃花が直面している問題である。

第三次中東戦争に見る
「ハーバード流」の有効性

 そこで「ハーバード流交渉術」である。この技術のポイントは、自分が得たいものと相手が話し合いに応じるものをうまく見極めるということにある。

 実例を挙げよう。イスラエルとエジプトが中東戦争を行っていた当時、イスラエルがシナイ半島を占領したことがある。第三次中東戦争である。イスラエルと隣接するエジプト領のシナイ半島は、イスラエルの安全にとって脅威だった。ここからエジプトに侵攻されると、イスラエルはひとたまりもないからだ。

 しかしエジプト政府は、ここでハーバード流交渉術を用いてイスラエルと対話した。結果として、占領されたシナイ半島はエジプトに返還されることになる。