「冷暖房界のiPod」と呼ばれている新機器がある。「ネスト」という名前のサーモスタット(温度調節装置)だ。
ネストは、シリコンバレーの新興企業、ネスト・ラボが開発、販売しているもので、昨秋に発売された。年内に第一弾製造分は売り切れるというヒットぶりで、現在予約した人々が第二弾の製造完了を待っている状態である。
たかがサーモスタットに、なぜそんな人気が、と思われるだろう。そこで、ネストの人気の秘密を4つに分けて説明しよう。
第一は、デザインの美しさ。ネストはステンレス製円形で、中央に設定室温がデジタルにわかりやすく表示される。冷暖房はセントラル・システムが中心のアメリカだが、これまでサーモスタットを本気でデザインしようと考えたメーカーはなかった。サーモスタットと言えば、ベージュの四角い箱に冴えないボタンがついたものがほとんどだった。それが、ネストはこのスマートな美しさである。
第二の特徴は、ネストがインテリジェントなサーモスタットであることだ。まずは、ユーザーの生活パターンを学習して、独自に温度設定を行う。最初1週間くらいは、ユーザー自身が必要に応じて設定温度をこまめに変えなければならないが、それをネストが覚え、今度はこちらの操作なしに温度を変えてくれる。また、留守にしていると、センサーでそれを感知し、留守モードに設定温度を変える。しかも、ネストはWiFi接続されているので、出先からでもコンピュータやスマートフォンで設定を変更することができるのだ。WiFi接続ということは、もちろん、ソフトウェアのアップデートも自動的に行われる。
ネスト人気の第三の理由は、光熱費節約の方法を「緑の葉っぱ」で教えてくれることである。寒い日は室内温度を暖かく設定し、暑い日は低くすれば心地よいのはわかっているが、それでは光熱費を節約できない。そうした時ネストは、心地よさを保ちながら、設定温度をちょっと上げたり下げたりすればエネルギーが節約できる範囲を知っていて、ユーザーがそこに設定すれば、葉っぱマークを表示するのだ。ストイックに寒さや暑さに耐えるだけの節約ではないわけで、まるでこちらの心をわかってくれるような臨機応変ぶりなのだ。