「食事は30年来、自分で作っています」ということなので、後日、その写真をメールで送っていただく約束をして、その日は別れた。

 数日後。「さて、昼食を兼ねた遅い朝食、ブランチの写真を撮りました」という文章とともに送られてきた写真を見て、筆者は衝撃のあまりひっくり返った。

昼食を兼ねた遅めの朝食。中央のチーズトーストから左回りにコーンフレーク(シリアル)、ハムエッグ、ジュース、ヨーグルト(上にかけてあるのはお取り寄せしたブルーベリーエキスのはちみつ)、バナナ、きっかり8等分したトマト、サラダ。サラダの中身はレタス、キャベツ、ピーマン、オニオン、にんじん、きゅうり、ブロッコリー、コーン、レーズンで、みかんの皮を天日干ししたものと摺った黒ごまをふりかけている。ちなみに、この日のジュースはパインアップル味。

 チェックのテーブルクロスに、大小のお皿やお箸、スプーンが整然と並んでいる。その盛りつけと配置から、そこはかとなく立ち上ってくる「生真面目さ」と「几帳面な性格」。箸置きの上に据えられたお箸とデザートのバナナがほぼ並行に並んでいることを発見した時は、希少生物を見たかのような感動さえおぼえた。

 ご本人の説明によると、ジュースとデザートは日によって変わるが、ほかのメニューは15年間、ほぼ同じ。ヨーグルトは市販のものではなく、8年ほど前に知人から譲り受けたカスピ海ヨーグルトの種で作った自家製だという。

 自称「一匹狼」ならぬ「一匹羊」。

 歌う審判、さいたまんぞうさん(63歳)である。

『なぜか埼玉』で大ブレイクし、
「芸能界のツチノコ」になったあの人

「できれば、中野までご足労いただければ幸いです」

 取材依頼のメールを送ると、すぐにこんな丁寧な返事が来た。「もちろんです」と返すと、駅近くの老舗菓子店の中にある喫茶室を指定された。

「奥の方が禁煙コーナーになっておりますのでそちらでお願いします」

 と、メールには書き添えてあった。

 約束の日、時間きっかりに待ち合わせの場所に現れたさいたまんぞうさんは、赤いウールのショートコートに、足下は同じく赤のコンバース。還暦を迎えた客が大半ではないかと思える店内で、ひときわ若々しいそのファッションはかなり目立っていた。

「ぼくは、お酒も飲めない下戸人生ですから。コネとかは、一切ないんです」

 言われなくても、それはうすうす感じてはいた。

 ヒットしたのはデビュー曲の『なぜか埼玉』一曲だけ。たまに「あの人は今」で取り上げられても、全国ネットでその姿を目にすることはめったにない。そこで、自分でつけたキャッチフレーズが、「芸能界のツチノコ」。定期的に死亡説が流れるのにあやかろうと、20周年記念のアルバムに『生存証明』というタイトルを付けるセンスは、やはり、タダモノではない。

「ほんと、これでよく生きてこられたなと思います。かなりの強運ですよ、きっと」