会期中計3回行われたトーク・セッションは、日本におけるグールド研究の第一人者である文芸・音楽評論家の宮澤淳一によるもの、キュレーターである坂本龍一と、人気バンド・サカナクションの山口一郎、音楽誌『サウンド&レコーディング・マガジン』編集人の國崎晋の鼎談、さらには宮澤淳一と京都造形芸術大学大学院芸術研究科教授、同大学院学術研究センター所長の浅田彰の対談と、どれもグローバルな視点と日本独自の視点が交差する刺激的なセッションとなった。

 こうした、日本と日本人から見たグールドと対になっていたのが、グールドが愛した日本文化の紹介だった。

 まずは映画作品『砂の女』。安部公房の同名小説を原作とした1964年製作の日本映画で、監督は草月流三代目家元でもある勅使河原宏。岸田今日子が主演のこの映画を、グールドは100回以上も観賞したと伝えられているほど愛した。原作小説も愛読したという。この作品はカナダ大使館のオスカー・ピーターソン・シアターのほか、監督ゆかりの草月会館のホールでも上映された。

 また、同じくグールドが愛した日本の小説としては夏目漱石の『草枕』が有名だ。グールドは英訳された『草枕』の本を、ところどころに赤線を引くほど熟読し、晩年にはこの小説を原作とした映画やオペラの構想もしていたらしい。

 坂本龍一は当初、グールドが赤線を引いた英訳本の実物を展示することを考えていたが、その紛失が明らかとなってかなわなかった。そこで、後述のインスタレーション作品に、『草枕』について語るグールドの肉声を挿入するという形でグールドと『草枕』の関係を紹介することとなった。

 このGGGのために坂本龍一が用意したインスタレーション作品は2点。ひとつは坂本龍一の音楽を使用した音響インスタレーション作品で、草月会館のプラザ(エントランス)で展示された。

 この音響インスタレーション作品が展示されるプラザはもともと彫刻家イサム・ノグチの設計による『石庭』というアート空間であり、この空間には水路が設けられて水琴窟もある。坂本龍一はこの水琴窟の手水鉢にマイクを立て、そこでの水の滴る音をリアルタイムで音楽とミックスした。

 最新アルバム『async』でも顕著だが、坂本龍一の近年の作品では水の音が重要な役割を果たしている。重要なシーンで水音が特徴的に響くアンドレイ・タルコフスキー監督の映画は坂本龍一の作品に大きな影響を与えているが、このプラザでのインスタレーションは『石庭』の水音を音具として使うことで坂本龍一とタルコフスキーとグールドの世界が一体となったような静謐で美しい作品となった。

 もうひとつのインスタレーションは映像作家Zakkubalanが新たにカナダでグールドゆかりの人たちのインタビューや風景を撮影した映像を基にし、高谷史郎が会場・映像構成、濱哲史がプログラミングを担当したもの。ここにはグールドが『草枕』を語るナレーションも挿入されている。青山通りを挟んだ向かいの赤坂御所の佇まいを借景とした草月会館の談話室で、多くの大画面モニターに映し出されたこの映像インスタレーションも訪れた人の足を止めさせる印象の強いものになった。

 そして、このGGGの大きな特徴となったのはなんといってもライヴ・パフォーマンスだ。