東日本大震災は雇用にも大きな影響を与えた。電力不足や日本経済の衰退によって企業は海外に目を向けざるを得なくなり、拠点の海外移転を進める企業は多く、本格的なグローバル化へ加速している。サービス経済化も進み、製造業中心の社会を前提とした旧来の労働法制とのギャップは広がるばかりだ。2012年の労働環境と今後の労働法制はどうあるべきなのか。リクルートワークス研究所長の大久保幸夫所長に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 原英次郎、片田江康男)
震災でぼんやりしていたものが
はっきりと見通せるようになった
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――東日本大震災は雇用や私たちの働き方にどのような影響を与えたのか。
震災前はリーマンショックで落ち込んだ景気が、ゆっくりと回復していた時期だった。多くの企業では中長期の経営計画をスタートさせたばかりだった。そこで東日本大震災が起こった。震災は企業が経営計画で掲げた「変化の方向性」を加速させたと見ている。「やるしかない」と決心させ、背中を押す作用があったのではないだろうか。
例えば「グローバル化」だ。これは何年も前から必要だと言われ続けてきたが、なかなか進まなかったことだった。しかし、国内の景気低迷や震災による電力不足が企業の目を海外へ向けさせ、製造拠点を海外に移すなど具体的な行動に出ている。
また、製造業を中心に計画停電対策や節電対策のために、始業時間を数時間前倒しした。これは実質的に「サマータイム制度」で、何年も議論されたものの、結局定着に至らなかったものだ。さらに、勤務時間をずらすことで、必然的に在宅勤務制度を整備せざるを得なくなった。これらは賛成とか反対とか関係なく、必要に迫られてやったことだったが、実際にやってみたら、たいした問題は起こらなかった。
実は震災がきっかけで、新しい雇用形態などが生まれたということはなかった。今まで何らかの形で議論されていたものだった。2011年は、「将来的にこういう方向性に進んでいかなければならない」とぼんやり見えていたものが、震災ではっきりしたのだ。
働く人々の心理も変化
採用も細分化される
――採用方針や社内の人事制度も変化していくことになるのか。