「世界で最も影響力のある経営思想家」トップ50人を隔年で選出するThinkers50
最新の2017年版で2位にランキングされたドン・タプスコットは、世界的なベストセラーとなった『ブロックチェーン・レボリューション』の中で大小さまざまの予言をしている。
銀行の大リストラが発表されるなど、日本でもブロックチェーンによる変革が現実になってきた今、あらためて大きな流れを押さえておこう。

(注)この記事は2016年12月に配信された記事を再編集したものです。

ブロックチェーンから見えてくる未来

 本書ではブロックチェーンが可能にする新たな動きをさまざまな分野から紹介し、それがどのように世界を豊かにするかを見ていきたいと思う。

 豊かさとは、まず第一に生活水準の向上を意味する。そのためには、お金を稼ぐための手段とチャンスが不可欠だ。でも、もちろんそれだけではない。安心、安全、健康、教育、自然環境。自分の生き方を自分で決定し、社会と経済に主体的に参加できることも大切だ。

 人が豊かに生きるために最低限必要なものはいくつかある。財産を安全に保管・移動できる基本的な金融サービスへのアクセス。経済活動に参加するための通信手段や取引ツール。土地や財産の所有権が正当に守られる制度。

 ブロックチェーンなら、すべて実現できる。

 これから紹介する数々のストーリーは、誰もが豊かに暮らせる未来を垣間見せてくれるはずだ。そこにあるのは、個人のプライバシーや安全が守られ、データが誰かのものでなく自分自身のものになる世界。大企業が技術を独占することなく、誰もがテクノロジーの発展に参加できるオープンな世界。そしてグローバルな経済から排除される人がなく、どこにいてもその富の恩恵を受けられる世界である。

 ここで少しだけ、その一端をのぞいてみよう。

本物のシェアリング・エコノミーがやってくる

 最近「シェアリング・エコノミー」という言葉をよく耳にする。空き部屋が借りられるAirbnb(エアビーアンドビー)や、必要なときに車を手配できるUber(ウーバー)、雑用を依頼できる TaskRabbit(タスクラビット)などを指してそう言うらしい。

 でもそういうサービスは、本当の意味での「シェア」ではない。情報を集約することで成り立っているからだ。実際、彼らは「シェアしないこと」によって収益を得ている。たとえばUberは、ドライバー情報を自分のところに集めることで650億ドル規模の会社に成長した。Airbnbは空き部屋情報を一箇所に集め、評価額250億ドルを誇るシリコンバレーの寵児になった。情報を集めて手数料をたっぷりとっているから、それだけの成長を遂げられたのだ。

 この手のサービスが可能になったのは、スマートフォンやGPS、決済システムなどの技術的な条件が整ったからだ。でも今はまだ、完成形ではない。ブロックチェーンはシェアリング業界をふたたびかき乱し、今よりずっと画期的なサービスを登場させるはずだ。

 Airbnbによる集中管理は廃れて、そのかわりに分散されたアプリケーションが主流になるだろう(ブロックチェーンの頭文字「b」をつけて、bAirbnbと呼びたい)。bAirbnbは、各メンバーによって主体的に運営される。部屋を借りたい人が検索条件を入力すると、ブロックチェーン上のデータからそれに合うものが抽出される。取引がうまくいって高い評価が得られれば、それがブロックチェーンに記録されて評判が上がる。誰かに仲介してもらわなくても、データがそれを教えてくれるのだ。

 イーサリアムの考案者ヴィタリック・ブテリンはこう語る。

「たいていの技術は末端の仕事を自動化しようとしますが、ブロックチェーンは中央の仕事を自動化します。タクシー運転手の仕事を奪うのではなく、Uberをなくして運転手が直接仕事をとれるようにするんです」

金融業界に競争とイノベーションが生まれる

 金融業界は経済を支える要だが、そのシステムにはかなり問題がある。

 とにかく巨大で身動きが取りづらく、技術の進化にまったくついていけない。既得権益を守るのに必死で、新しいものを取り入れることに後ろ向きだ。時代遅れの技術を使いつづけ、19世紀につくられたようなルールでいまだに動いている。その業務は矛盾に満ち、時間がかかり、セキュリティの穴も多い。それに情報が不透明すぎる。

 ブロックチェーンは金融サービスを古くさい銀行から解き放ち、業界に競争とイノベーションを取り入れるだろう。利用者にとっては朗報だ。これまでは採算がとれないとかリスクが高いという理由で金融サービスからはじきだされる人が何十億人もいた。でもブロックチェーン時代になれば、誰もがオンラインで買い物をしたり、お金を借りたり、ものを売ったりできるようになる。もう豊かな暮らしをあきらめなくていい。

 既存の金融機関も、その気にさえなればブロックチェーンを活用して進化できる。銀行、証券取引所、保険会社、会計事務所、クレジットカード会社など、あらゆる業務が劇的に改善されるはずだ。みんなで同じ帳簿をシェアすれば、決済に何日もかかるようなことはなくなり、目の前であっという間に取引が完了する。そうすれば何十億という人が助かるし、あらゆる場所で新たな起業家が生まれるだろう。

財産権が確実にデータ化される

 財産権は資本主義のしくみと分かちがたく結びついている。アメリカ独立宣言の前文にある「生命、自由、幸福の追求」という権利は、最初の草稿では「生命、自由、財産の追求」となっていたほどだ。現代の暮らしはそうした思想に支えられているわけだが、それが実際に守られるとは限らない。

 自分のものだった土地を政府の独断で奪われる人が世界には数多くいる。腐った役人がデータを書き換えれば、それで終わりだ。自分の土地だという証拠がないので、ローンも組めず、家も建てられず、ある日とつぜん取り上げられても文句が言えない。これは深刻な事態だ。

 ペルーの経済学者で開発援助の第一人者であるエルナンド・デ・ソトは、財産の所有権がまともに認められないせいで貧困にあえいでいる人が世界各地に5億人いると指摘する。彼はブロックチェーンがその解決策になると考えている。

「ブロックチェーンの核にあるのは、何かの所有権を確実に取引するという考え方です。その対象はお金でも、モノでも、アイデアでもいい。大事なのは単に土地を記録することではなく、そこに関わる権利を記録して、所有権が犯されないようにすることです」

 これからの時代、財産権を守るのは銃や兵士ではなく、テクノロジーの役目だ。データを見れば、所有者は誰の目にも一目瞭然。記録が急に消えることもない。

送金が安く、早く、簡単になる

 暗号通貨の話で必ず言及されるのが、送金の便利さだ。送金は人びとの暮らしに直結する大問題である。

 途上国に流入する資金でもっとも多いのは、政府の援助でもなければ投資資金でもない。外国に住む労働者から家族への個人送金だ。だが国境を越えてお金を送るのは面倒で時間がかかる。いちいち銀行に足を運び、毎回たくさんの書類を書かされて、しかも7%も手数料を取られたりする。もっといいやり方があるはずだ。

 モバイル送金サービスのアブラ社は、ブロックチェーンを使った国際送金ネットワークを開発した。銀行の窓口を介さず、スマートフォンで簡単に現金を送れるシステムだ。これまで送金に1週間かかっていたのがわずか数分程度に短縮され、手数料は7%以上かかっていたのがわずか2%程度ですむ。アブラは今後さらにネットワークを広げ、世界中のATMの数を上回る規模にしたいと目論んでいる。

 送金サービス老舗のウエスタンユニオンが50万の取扱店をつくるのに、150年かかった。アブラはそれを1年で達成するつもりだ。

クリエイターが作品の対価を受けとれる

 これまでのインターネットは、クリエイターにやさしい場所ではなかった。ミュージシャンと契約しているレコード会社はインターネット時代にうまく適応できず、古いビジネスモデルにしがみついて徐々にその力を失いつつある。

 1999年に登場した音楽ファイル共有サービス「ナップスター」は、古くさい音楽業界の体質を浮き彫りにした。著作権で保護された音楽がシェアされたことが問題になり、既存のレコード業界がナップスター社とその創業者、さらに1万8000人のユーザーに対して訴訟を起こしたのだ。そのせいでナップスター社は2001年に倒産した。

 ナップスターのドキュメンタリー映画を監督したアレックス・ウィンターは、ガーディアン紙のインタビューで次のように語っている。

「大きな文化的変化を前にして、白か黒かという考え方はどうかと思うんです。ナップスターの場合、『自分で買ったんだから何でもシェアしていい』という立場と『購入したファイルのひとつでもシェアしたら有罪だ』という立場があったわけですが、大半はその中間のグレーゾーンに位置するわけですよね」

 ユーザーを訴えるよりも、ユーザーと共にサービスをつくるというビジネスモデルのほうが長続きするに決まっている。ナップスターの訴訟騒ぎは、既存の音楽業界がいかに非効率で時代遅れで、ミュージシャンにやさしくない業界であるかを世間に見せつける結果となった。

 それから今にいたるまで、状況はほとんど変わっていない。でもブロックチェーンの登場で、少しずつ新たな動きが見えてきた。イモージェン・ヒープやゾーイ・キーティングといった先進的なミュージシャンが、業界に新たな風を吹きこもうとしている。

 これから音楽や創作に関わる業界は大きな変化を迎え、クリエイターは作品の対価を十分に受けとれるようになるはずだ。

会社の形態が進化する

 グローバルなP2Pプラットフォームは、会社という概念を問い直すことにもなりそうだ。ブロックチェーンはイノベーションや価値の共有を推進し、富の集中を改善して、多数の人に豊かさが行きわたることを可能にする。

 会社の収益や規模が小さくなるという意味ではない。莫大な価値を生みだし、業界に大きな影響力を持つ会社も出てくるだろう。だがその形態は20世紀的なヒエラルキー組織ではなく、フラットなネットワークに近い形になるはずだ。そうなれば、より多くの人に富が分配(再分配ではなく)されやすくなる。

 ブロックチェーンを利用したスマートコントラクトの普及によって、これまでの組織とはまったく違うオープンネットワーク型企業が主流になるかもしれない。さらにはインテリジェントなソフトウェアがみずからリソース配分やマネジメントを実行する分散自律型企業(DAE、Distributed Autonomous Enterprises)の可能性も見えてくる。

 従来のビジネスモデルは大きな変革を迫られるだろう。

モノが自分で動くようになる

 あらゆるものがネットワークに接続され、周囲の変化やできごとを検出してシームレスに協調する世界。技術者やSF作家は昔からそんな未来を思い描いてきた。

 ブロックチェーン技術を使えば、インターネットに接続されたモノ同士が連携し、価値(エネルギー、時間、お金など)を交換し、需要と供給力にもとづく柔軟なサプライチェーンを築くことが可能になる。メタ情報を付与されたスマートデバイスがその情報をもとにお互いを認識し、状況に応じて適切な行動をとってくれるのだ。

 モノが自分で動くようになれば、人は大きな恩恵を受けられる。オーストラリアの奥地で農場の電力を必要としている人も、余った電力をシェアしたい個人も、みんなが今より豊かになれる。

小さな起業がどんどん生まれる

 豊かな経済と社会には、起業家精神が不可欠だ。

 インターネットは起業家に新たな可能性をもたらし、既存の慣習に縛られない小回りのきく事業を可能にするはずだった。ところが、一部の大成功したドットコム企業がもてはやされる陰には、不都合な数字が見え隠れする。新たに創業された企業の数は、多くの先進国でこの30年間減少しつづけているのだ。

 一方の途上国では、インターネットを活用して起業しようと思っても、政府や役人が相変わらず大きな障壁となっている。起業に必要な資金や決済システムへのアクセスも、一部の人にしか行きわたっていない。

 才能ある起業家だけの問題ではない。ごく普通の人が日々の生活費を稼ごうと思っても、銀行口座がなければ支払いを受けられないし、役所での面倒な手続きや決まりごとが大きな障壁になっている。

 複雑な問題だが、ブロックチェーンはそこに突破口を開く助けになると思う。自分の住んでいる場所に縛られず、世界中の人と直接契約することが可能になるからだ。グローバルな経済にアクセスできれば、資金調達、取引先、提携、投資などのあらゆるチャンスがぐんと広がる。どんなに小さな事業でも、ブロックチェーンなら十分に成り立つ。

政治が人びとのものになる

 経済だけでなく、政治も大きく変化する。

 ブロックチェーン技術で政治を変革する試みはすでに始まっている。政治のコスト削減とパフォーマンス向上が望めるだけでなく、民主主義のあり方そのものが変わっていく可能性もある。政府は今よりずっとオープンになり、利益団体の影響力は衰え、より誠実で透明度の高い政治が可能になるはずだ。

 ブロックチェーン技術がいかに政治を改善し、選挙をはじめとする政治への参加プロセスを変えていくかを追って紹介したい。社会サービスはより公平に行きわたり、厄介な問題がいくつも解決され、政治家は公約をきちんと守るようになるだろう。

未来型プラットフォームの光と闇

 いいことばかりのように書いてきたけれど、もちろん乗り越えるべき障壁はある。ブロックチェーンが登場してまだ日が浅いこともあり、技術が成熟していないし、使いやすいアプリケーションも出揃っていない。

 それだけでなく、ブロックチェーンのしくみ自体に対する批判も出ている。

 取引を承認するためにマシンパワーを消費するというしくみは、エネルギーの浪費ではないのか。この先ブロックチェーンの数がふくれあがり、1日に数十億件の取引が発生するようになったらどうなるのか。ブロックチェーンの計算に参加するインセンティブは十分に保てるのか。ブロックチェーンは人びとの仕事を奪うのではないか。

 ただし、これらは技術的な問題というより、リーダーシップとガバナンスで解決できる問題だ。新たなパラダイムを率いるリーダーたちが声を上げ、経済や社会にイノベーションの波を起こし、ブロックチェーンが正しく発展できるように導いていく必要がある。この点についても、あとでじっくり論じるつもりだ。