
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第101回(2025年8月18日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
史実と比較!
なぜ嵩は「漫画以外の仕事」をしているのか
第21週「手のひらを太陽に」(演出:野口雄大)は名曲「手のひらを太陽に」の誕生から始まった。ときに1964年。
嵩(北村匠海)や八木(妻夫木聡)が新たな仕事を始めて活躍していく。蘭子(河合優実)もフリーライターになった。その一方で、のぶ(今田美桜)は会社で肩たたきに遭い、辞めることに。既婚で、しかももう若くない女性が会社で求められていない現実に打ちのめされる。
このレビューでは、嵩や八木などのモデルの史実をいくつか挙げてドラマと比較してみよう。
停電と懐中電灯をきっかけに嵩が書いた歌詞をいせたくや(大森元貴)が「漫画みたいな歌詞ですね」と評する。これは褒め言葉。このセリフの元ネタはやなせたかしの発言に見られる。
『詩集 愛する歌 第一集』(72年)でやなせは「ボクはマンガと詩というものを全く同一次元で考えています。ふたつともわかりやすく、人生を楽しくする為に役立つものでなければならないはずです」と書いている。
詩のほうが売れて漫画が売れないからそんなふうに言ったのかもしれないが、それはわからない。
ともあれ、いせはさっそくこの詩に曲をつけ(大森がまた歌った)、大ヒット。嵩は忙しくなった。
ただその忙しさは漫画の仕事ではない。作詞やテレビ番組やラジオの構成や司会など、文化人のような立ち位置になっていく。収入は上がっていくのだろうけれど、嵩は収入アップが目的で生きているわけではないので悩みが尽きない。