世界的ベストセラー、『ブロックチェーン・レボリューション』で予言された数々の変革が日本でも起こり始めた。なかでも、大きなインパクトが予想されるのが、ICO(Initial Coin Offering)というこれまでにない資金調達手法だ。
有限責任監査法人トーマツにてFinTech領域の戦略立案に従事し、『ブロックチェーン・レボリューション』の翻訳協力者でもある勝木健太氏に、最新情報を整理してもらった。
(注)当該記事は公開情報に基づいた執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない。
最近、ICO(Initial Coin Offering)という資金調達手法が大きな注目を集めている。ICOは資金調達の仕組みとして極めて画期的であり、現在の資本市場のあり方を根本的に変革する可能性を秘めている。
書籍『ブロックチェーン・レボリューション』の中でも、ICOのコンセプトは「ブロックチェーンIPO」という名称で紹介されており、著者のドン・タプスコットは「ブロックチェーンIPOが主流になれば、やがて世界の金融システムから多くの役割が消えることになるだろう。証券会社や投資銀行は時代遅れになる」と述べている。
一方で、ICOには法規制の問題をはじめとして、数々の克服すべき課題が存在する。本稿では、ICOの概要や最新の動向についてお伝えするとともに、海外を中心に盛んになりつつある法規制面の議論について紹介する。
ICOとは何か
ICOとは新規株式公開IPOになぞらえてつくられた言葉であり、簡単に言えば、企業が独自の仮想通貨を発行することで、資金調達を行なう仕組みのことを指す。
これまでは、スタートアップ企業が資金調達を行なう場合、自社の株式を発行することで、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから資金を調達したり、新規株式公開IPOを目指すやり方が一般的だった。
しかし、ICOの場合、株式を発行する代わりに、ブロックチェーン上で独自トークン(仮想通貨/暗号通貨)を発行し、一般投資家に向けて販売することで、資金調達を行なうことができる。
これは企業側からすれば、実現すべきビジョンを掲げ、ICOを実施することで、世界中の一般投資家から資金を調達できることを意味する。
投資家側の立場でも、ICOに参加することによって、世界中の有望なスタートアップ企業に対し、アーリーステージの段階から少額投資を機会を得ることができる。
また、トークンによっては、ICOを実施してから数週間の間に仮想通貨取引所で取り扱われる場合があり、セカンダリーマーケットが存在していることも大きなメリットの一つだ。
(ただし、これらの取引所で扱われたものの、取引量が著しく少ない場合や当局が規制対象と認定したトークンについては、取扱いが突然停止される可能性がある点には注意がする必要がある。)
一方で、冒頭に記載した通り、現状行なわれているICOには数多くの克服すべき課題が存在する。ICOの課題については、後篇で詳細に述べる。
ICOで証券会社やベンチャーキャピタルが
不要になる可能性も
冒頭で述べた通り、ICOを活用した資金調達のプロセスにおいては、従来のような「中間管理者」が介在しないため、既存の証券会社やベンチャーキャピタルが「ディスラプト」される可能性が指摘されている。
実際、ICOトークンに投資を行なうベンチャーキャピタルとして知られるPantera Capital(パンテラ・キャピタル)のDan Morehead(ダン・モアヘッド)は「長期的に見れば、VCが資金調達を仲介する必要がなくなる可能性はある」とTech Crunchのインタビューで述べている。
ただ、逆に、先進的な証券会社やベンチャーキャピタルの中には、ICOをいち早く自社ビジネスに取り込むような動きを見せている企業も存在する。
具体的には、米国において、ICOトークン発行のアドバイザリー業務を提供する証券会社のArgon Group(アルゴン・グループ)が挙げられる。同社は米モルガン・スタンレー出身者が中心となり、2016年に創業された企業だが、すでにいくつかの企業のICOトークン発行をサポートした実績がある(参考 Blockchain Capital / Civic)。
また、トークンに投資を行なうベンチャーキャピタルとしては、先ほど紹介したPantera Capital(パンテラ・キャピタル)の他にPolychain Capital(ポリチェーン・キャピタル)が挙げられる。
Polychain Capital(ポリチェーン・キャピタル)には、Anrdreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)やUnion Square Ventures(ユニオン・スクエア・ベンチャーズ)といった著名なベンチャーキャピタルが出資している点も見逃すべきではないだろう。
ICOの市場規模
ICOの市場規模は急速に拡大している。米国に本拠を置く調査会社であるSMITH+CROWN(スミス・クラウン)によれば、ブロックチェーン関連企業がICOを活用して資金調達を行なった金額は、2017年では6月時点で約850億円に達しており、昨年の年間実績の7倍に達する水準に到達している。現在では、ブロックチェーン関連のスタートアップに限定すれば、ベンチャーキャピタルではなくICOを活用した資金調達を行なうほうが主流になりつつある。
ICOの代表的な事例
続いて、ICOの代表的な事例を見ていこう。
ブレイブ・ソフトウェア(BAT:Basic Attention Token)
まずはサンフランシスコに本拠を置くBrave Software(ブレイブ・ソフトウェア)が発行したBAT(Basic Attention Token)。24秒で35億円もの金額を調達したことで業界を騒然とさせた。資金調達の成功の要因としては、同社を率いるBrendan Eich(ブレンダン・アイク)氏がブラウザ「Firefox」の開発を手がけるMozilla(モジラ)の最高経営責任者を務めた経験があり、一定の実績を有していることが挙げられる。
また、すでに商用化されているBrave Browser(ブレイブ・ブラウザ)が存在することも強みの一つだ。このBrave Browser内に出稿された広告をユーザーが閲覧したり、シェアすることで、ユーザーに独自トークン「BAT(Basic Attention Token)」が与えられる仕組みだ。デジタル広告の中央集権的な構造を変革することを目的しており、個人的に注目しているプロジェクトである。
バンコール・ネットワーク(BNT:Bancor Network)
イスラエルに本拠を置くBancor Network(バンコール・ネットワーク)は、イーサリアム・ブロックチェーン上で発行されたトークン同士の変換を行なうことを目的とするプロジェクトだ。3時間で160億円もの資金を調達したことで、大きな話題となった。
余談だが、筆者もBNTのICOには参加したが、参加希望者が相次いだため、イーサリアム・ブロックチェーンのネットワークが大混雑し、ETH(イーサ)の送金がなかなか届かず、約1時間にわたり悪戦苦闘した記憶がある。
イーサリアム(Ethereum)
また、上で紹介したEthereum(イーサリアム)も分散型アプリケーションのプラットフォームとして、2014年にICOを実施したことで誕生した。当時のイーサの価値は「1ETH=0.0005BTC」であったため、当時ETHに10万円分投資していただけで、数億円のリターンを得ることができていた計算になる。
( ちなみに、ICO当時の販売価格からトークンの価格が何倍になったかについてリアルタイムに知る手段としては、「ICO STATS」という海外のウェブサービスの「ROI Since ICO」が参考になる。)
投資家としてICOに参加する方法
投資は自己責任だが、上述のイーサリアムの事例のように、ICOの時点でトークンを購入することで、莫大なリターンを得る可能性も存在するため、ICOトークンへの投資が世界的に注目を浴びている。
Skype(スカイプ)やBaidu(バイドゥ)の初期投資家として著名なTim Draper(ティム・ドレーパー)氏も、Bancor(バンコール)やTezos(テゾス)といったICOに参加しており、大きな話題を呼んだ。
ICOトークンへの投資は極めてハイリスクであり、個人的には推奨はできないが、少額ならトライしてみるのも悪くないかもしれない。スマートコントラクト機能を体感できる良い機会でもある。一般的には、以下の手順を踏む。
1.ICOを実施する事業者のウェブサイトにて、ICOが行なわれる日時を確認する
2.あらかじめウォレットをダウンロードしておき、指定された日時に、指定されたアドレスに仮想通貨を送金する。
3.送金が完了すると、スマートコントラクト機能により、自動的にトークンがウォレットに送金される
4.換金を行なう場合は、数週間後、発行されたトークンが仮想通貨取引所で取り扱われた後、換金を行なう
ただし、仮想通貨で売却益を得た場合、税金がかかる可能性があるため、在住地の税務署に個別に確認することを推奨する。
事業者としてICOトークンを発行する方法
ICOトークンの発行に関しては、いくつかのやり方がある。我が国では法的な位置づけが定まっていないため、現時点での発行は「慎重さ」を要するが、最も一般的な方法は、イーサリアム・ブロックチェーン上で発行するやり方だ。ソースコード等もGithubに記載されている。代表的なイーサリアムウォレットの一つであるMetamask(メタマスク)のインストールを済ませれば、開発環境も容易に構築することができる。
また、最近では、Mobile Go(モバイル・ゴー)やStarta(スタータ)のように、Wavesプラットフォーム上でICOを行なうプロジェクトも登場してきている。さらに、NEMベースのブロックチェーン上で発行されたICOも登場してきている。我が国で話題のVALU(バリュー)は「OpenAsset」というプロトコルを採用している。
※後篇に続く。
幼少期7年間をシンガポールで過ごす。 京都大学卒業後、新卒で三菱東京UFJ銀行に入行。現場では法人営業、本店ではグローバル金融規制対応(バーゼルIII、ドッド・フランク法 etc)、各国中央銀行との折衝に従事。4年間の勤務後、PwCコンサルティングを経て、現在は、有限責任監査法人トーマツにて、ブロックチェーン技術を始めとするFinTech領域の戦略立案に従事。