2022年度から24年度の
公債等残高対GDP比の変化幅

基礎的財政収支が赤字の間に、債務残高対GDP比は改善、それでも安易な財政拡張は禁物だ

 2025年7月に10年国債利回りは一時1.6%まで上昇した。参議院議員選挙で野党が大型減税などを掲げて台頭したことを受け、財政拡張への警戒感が強まっている。

 だが意外にも、過去を振り返ると、財政赤字が必ずしも債務残高対GDP(国内総生産)比を上昇させるとは限らない。直近の内閣府の試算では、債務に概念上近い公債等残高対GDP比は、ピーク時の22年度から24年度に10.3%ポイント低下した。この間、基礎的財政収支(PB)は赤字だったにもかかわらず、である。

 PB赤字と債務残高対GDP比の低下が両立する理由は、「ドーマー条件」を満たしたことにある。ドーマー条件とは、名目実効利回り(利払い費を債務残高で割った値)が名目GDP成長率を下回る場合、GDP比で見た利払い負担が減少するため、PB赤字で債務残高が増加しても、その対GDP比は低下する場合があるというものだ。

 日本では過去に低い表面利率で発行した国債が多く残る。このため、インフレ状態へ転換して名目GDP成長率が高まっても、名目実効利回りの上昇ペースは当面の間は緩やかであろう。

 ただし、インフレの定着で金融政策の正常化が進めば、表面利率の高い国債が多くなり、ドーマー条件は満たされにくくなる。現状に甘んじて財政健全化の取り組みが遅れれば、同条件を満たさなくなったときに債務残高対GDP比が急上昇するリスクに直面しかねない。

 仮に財政の持続可能性に対する疑念が強まれば、日本国債の格付けが引き下げられる可能性もある。その場合、国に対する格付けがその国の金融機関等の格付けの上限になるという「ソブリンシーリング」にも注意が必要だ。国債に連動する形で金融機関の債券の格付けが引き下げられれば、国際金融市場でのドル調達コストが増加する。最悪の場合、金融危機に発展することも考えられる。

 こうしたリスクの顕在化を避けるには、今のようにPB赤字と債務残高対GDP比の低下が両立している状況でも、安易に財政を拡張させないことが肝要だ。仮に大型減税を行うにしても、同時にまた将来的にも歳出の削減や効率化を徹底し、財政の持続可能性を確保する必要がある。

(大和総研 シニアエコノミスト 久後翔太郎)