「ケータイでテレビなんて、見ないよねえ」

 2000年代前半、ちょうどブロードバンドやケータイのデータ通信サービスが花開きつつあり、いわゆる「通信と放送の融合」という言葉が喧伝されはじめた時期。私は三菱総合研究所で通信セクターのコンサルタントとして働いていた。これはその時の言葉である。

 固定と移動体の如何を問わず、通信セクターは総じてイケイケだった。私のところにも、次なるキラーアプリは何か、というお問い合わせをたくさんいただいた。その中の一つに、映像サービスがある。通信事業者に限らず、様々なステイクホルダーが関心を寄せていた。

 もちろんその時は、コンサルタントとして冷静な判断を下していたつもりだ。背景条件や対象市場、採用する技術やエコシステムの構築手法によって、事業性や将来性の有無は分かれる。守秘義務がある以上、答え合わせを公開するわけにはいかないが、予測の精度は(私の手柄というわけではないが)結果としてボチボチだったと思っている。

 ただ、ケータイでの映像サービスに関しては、冒頭で述べたような心境だった。だから、「事業性アリ」と評価できたサービスであっても、一消費者としては「本当に成立するのかな…?」と考えてしまい、どうにも釈然としないことも、正直なくはなかった。

 あれから7-8年が経つ。現状で評価すると、消費者としての考えは見事に外れ、いまや市場は百花繚乱である。その当時から事業化を目指していた方々に「ごめんなさい」と謝らなければならない。