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スマートフォンの理想と現実

競争力向上と巨大市場を背景に勢いづく中国勢、
新興国BOPビジネスをも射程に収めるケータイ産業

――モバイル・ワールド・コングレス(MWC)レポート【前編】

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第19回】 2012年3月2日
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BOP市場攻略の先駆者TeleNor社(ノルウェー)はグループ全体で加入者1億3000万人以上

 またBOP市場の攻略という意味で世界的に先駆者とされるのがTeleNor(テレノール)である。その名の通り、もともとはノルウェーの通信事業者だが、グループ全体でやはり1億3000万人を超える加入者を有しており、そのほとんどは新興国市場によってもたらされている。そんな彼らの話を聞いていると、その実績はウソでないと唸ることしきりである。

 たとえばケータイ産業でいえば、BOP市場にはもともとケータイが(場合によっては有線電話も)ない。だからそこでは価格を訴求しても、そもそも意味が通じない。むしろ大事なのは、「ケータイが自分の生活をより良くするのか」という本質的な価値である。そのため彼らは、たとえばモバイルヘルスを導入した。

 ここで大事なのは、それは先進国の遠隔医療ソリューションに見られるような、高度なアプローチではない、ということだ。極論すれば、電話の先にいる医師と音声通話で話す、というだけのサービスである。しかしそうやってケータイを渡せば、それを見たことがない人にとって、ケータイこそが医師そのものとなる。つまり〈刷り込み〉である。

 そしてその有難味が分かった人は、二度とそれを手放すことはない。ケータイを手放すことは、自分を診察してくれる医師を失うことになるからだ。ビジネス面からすれば、いわゆる先進国で評価される以上のロイヤリティが、サービスそのもの(とそれを支える事業者)に発生する。そしてチャーン(事業者の変更)を抑制し、マーケティング・コストの逓減と利益率の向上につながる。

 そのTelenorは今年、新たに遠隔学習のパラダイムを提案していた。しかしそれは例によって、日本で見られるような複雑怪奇なeラーニングシステムではない。単にWikipediaに寄付金を払い、それをTelenorの加入者が利用できるようにしただけである。それでも、「ケータイで知識が手に入る」と分かれば…あとはモバイルヘルスと同様だ。これぞBOPビジネスと称するに相応しい、実に優れたアプローチである。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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