安心・安全・安定を目的としたら、
決して満足できる人生にはならない

 さて、ここからが問題です。

 次にこのキャリア導線ごとに「キャリア展望」「過去受容」「人生満足」のスコアを出していますが、すべて一番スコアが高いのは、一貫してキャリアの幅を広げ続けているパターンでした。続いて僅差で5番目と6番目のパターンのスコアが高い結果となりました。つまり、途中はどうであっても、最後にキャリアの幅を広げている人が、現在の仕事への満足度が高く、過去を受容できていて、これからのキャリア展望も明るいということなのです。

 私が「守りに入らずトライを続けるべき」と言ったのはまさにこのことです。自ら率先して仕事のみならず働きの幅を広げ続けている人だけが人生に満足できるということなのです。

 もちろん、状況に応じて「絞る」「深める」ことも大切です。何らかの職務に精通していく過程も、キャリアにおいては重要なことです。仕事の幅を絞りその分野でのスキルを深めて進化させるということは、自分の立場が安泰になり、安全・安心を得ることにもつながります。

 問題はそこからです。目の届く範囲に仕事を絞り、その中で慣れ親しんだことだけを続けていれば確かに安心です。しかし、それは同時に自らの可能性の幅を狭め、仮にその分野が廃れた時の転身を難しくしてしまうことにもなるわけです。

 一般的に、55歳からの生き方、過ごし方を論じる場合、安全・安心・安定がテーマとなることが多いと思います。それは私も欲しかったものなので、そういう気持ちを否定はできません。しかし、それを目的としたら危険だということがこの調査でもよくわかります。結果として過去も受容できず、自分の人生にも満足できなくなってしまうのです。

 自分の人生に満足し続け、実際に安定させるためにも、「働き」の幅を常に広げ続けることが必要だというわけです。

 ちなみに、最も回答が多かった3番目の不変型ですが、「キャリア展望」「過去受容」「人生満足」のスコアはすべて最も低いものでした。

 だからこそ、55歳でもトライを続けることが重要なのです。この調査では、50代でも16.8%、60代でも14.1%の人が「まだキャリアの幅を広げ続けている」と回答しています。本当の意味での生涯現役とは決して今に留まることなく、自らの可能性を追求し続けている人のことを言うものなのです。

(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授 野田 稔)