昨日から宿泊していた柏木さまに、ボクはクリーニングに出されていたシャツを届けにうかがった。
「柏木さま、クリーニングしたものを届けにまいりました」
「おー、石川くんじゃないか! ありがとう! ありがとう!」
 相変わらず、低音のよく響く声でボクを安心させてくれる。
「とんでもないです。それでは失礼いたします」
 お辞儀をして部屋を出ようとすると……。
「ちょっと石川くん。さっきロビーで見かけた時、眉間にしわが寄っていたけど、どうしたの? 何か思い詰めているようだったけど……」
「えっ、そうでしたか? それは申し訳ございません」
「悩みでもあるなら、相談に乗るよ」
「いえいえ、お恥ずかしいのですが……。この年で整理整頓について考えていて。柏木さまもですが、素敵なお客さまはキレイ好きな方が多いので。あっ、どうでもいい話をしてすみません。とにかく眉間にしわが寄っていたのはプロ失格ですね。ご心配をおかけして本当にすみませんでした」
「いいんだよ。へぇ~、整理整頓ねえ。キレイを心がけるようになると、せかせかしなくなるからね。『服装の乱れは心の乱れ』なんて言葉があるけれど、服装だけでなく、これって部屋にも置き換えられると思うんだよ。だから、私は必ず会社に着いた時と帰る時、自分のデスク周りを軽く掃除しているんだ。そうすると、心がリセットされるんだよ」
 なるほど。
「部屋の乱れは心の乱れ。整理整頓ひとつで自分の状態を客観視することもできるわけですね」
「それだよ! 客観視だよ! いいこと言うね。あっ、これは本社に戻ったら社員にも伝えよう! ありがとう」
「ボクはただ柏木さまの話の感想を述べただけなので……。ボクのほうこそ、ありがとうございました!」

「お金は天下の回りもの」である理由

 ボクは休憩室に入り、柏木さまと話したことをおじいに伝えた。

タイチ「整理整頓をすると、好印象を与えられるし、自分を客観視できるようにもなる。そうしたら、人徳のある人になれるわけだね」

おじい「苦労だって整理整頓しやすくなる」

タイチ「苦労? お金や人間関係とかでの悩みのこと?」

おじい「そう。自分の負の感情に振り回されることがあるだろ?」

タイチ「さっき柏木さまが言っていた心の乱れのことだね。ボクは嫉妬やいらないプライドで苦労することがよくあるよ。それも整理整頓を意識すると減っていくんだね?」

おじい「そうなると自分勝手な主張をしないようになるから、人徳も上がるというもの」

タイチ「そうなの? お金に嫌われなくなる日が来るかもしれないんだ……。確かに、雨宮さまや柏木さまのような心の豊かなお客さまは、年を重ねるごとにお金に好かれている気がする。人徳がある人のところには、回り回ってお金が入ってくるってことなの?」

おじい「金は天下の回りもの、という言葉を噛み締めてみな」