先日、ANAホールディングスは傘下の格安航空会社(LCC)、ピーチ・アビエーションとバニラ・エアの統合を発表した。2019年度末をめどにピーチがバニラの事業を譲り受け、ブランドもピーチに一本化する方針だ。日本のLCC業界を牽引してきた2社の統合の背景には、航空業界の深刻なパイロット不足が少なからず影響しているという。なぜそんな事態になってしまったのか。(清談社 藤野ゆり)
LCCのシェア拡大が生んだ
深刻なパイロット不足
先日発表されたピーチとバニラの統合。海外LCCとの競争激化によって、価格競争に悩まされてきた2社にとっては、生き残りをかけた大きな決断となった。この統合の1つの要因として指摘されているのが、業界全体の人手不足、とりわけ「パイロット不足」である。
「LCCに限らず、今空業界全体がパイロット不足、特に深刻な機長不足に陥っています。その背景には2010年のJALの経営破綻によって、高齢の機長が大量に退職を余儀なくされたことにあります。退職した機長たちは次々に設立されていたLCCに再就職しましたが、LCCはコストを抑えるために、必要最小人数の機長しか雇えませんでした」
そう語るのは、元日本航空機長で運航安全推進部長などを務めてきた、航空評論家の小林宏之氏だ。
業界全体がパイロット不足に陥る一方、パイロットの需要は年々増大している。国際民間航空機構の統計によれば2030年、国際的にパイロットの必要数は現在の2倍以上、アジア太平洋地域に限定すれば、現在の4.5倍も必要になると予測されている。
「LCC利用率は、ヨーロッパで約40%、東南アジアは約50%と、急速にシェアを拡大しています。パイロット数の逼迫の要因には、航空需要の高まりと飛行機の大型機から中小型機への流れがあります。以前は飛行機といえばジャンボが主流でしたが、特にLCCの場合はコストの関係で中小型機がメインになる。ジャンボで一気に500人運べていたところを、中小型機にすると定員は100~200人程度に減ってしまうため、何度も便を飛ばさないといけません」(小林氏、以下同)
機材の大きさにかかわらず、フライトには機長と副操縦士、2人のパイロットが必要なため、便が増えればおのずとパイロットの必要数も増える。さらに、2020年に控える東京オリンピック・パラリンピックに向けて訪日外国人の増加も予想され、航空便の増加も避けられない。
一方で、パイロットの育成には時間も費用もかかり、なかなかすぐに対応できないのが現状だという。
「完全な素人が副操縦士になるのに必要な免許を取るためには、最低でも2年から2年半の期間と1200万以上の費用がかかり、非常に高額でハードルが高いのです。そして実用機の訓練に1年半前後かかる。機長となると厳しい訓練、経験が必要なため、さらにそこから免許を取るために10年かかることもあります」