裏切り者には「倍返し」?

池井戸 岡本さんは直接お客さんに接しているわけだし、やっぱり、性格が優しいですからね。僕はお客さんの顔を見ていないし、数字とストーリーしか聞いていないから、つい言いたい放題になってしまう(笑)。

岡本行生(おかもと・ゆきお)
アドバンストアイ株式会社代表取締役社長。1968年香川県生まれ。東京大学理学部情報科学科卒業。証券会社に入社し、95年、ペンシルベニア大学ウォートンスクールに留学。MBA(アントレプレナリアル・マネージメント兼ファイナンス専攻)を取得。同社退社後、99年、アドバンストアイ株式会社を設立、代表取締役に就任。両手仲介でないM&Aアドバイザリーを中小企業に提供すると共に、公益財団法人日本生産性本部のコンサルティングパートナーとして地域金融機関や大手企業のM&A担当者の研修も行っている。著書に『いざとなったら会社は売ろう!』『中小企業のM&A 交渉戦略』(ともにダイヤモンド社)がある。

岡本 強く言われたことも、ありましたよね。僕がかなり前からお手伝いをしている会社があるとき窮地に陥って、一時的に資金を出したことがあるんですが、そのお金が期日どおりに返済されなかったとき、「ちゃんと担保を取りなさい!」「それじゃ会社が成り立たない!」と。

 池井戸さん、まさに「半沢直樹」というか、凄腕銀行マンの追い込みのような勢いで(笑)。

池井戸 ハハハ。岡本さんが熱心だから、ついつい取引先がそれを利用して、これをやってくれ、あれをやってくれと頼もうとするんだよね。お金は二の次、みたいなことになりがちだから、「そういうときはコンサルティングフィーを取る!」「タダ働き厳禁!」と。

岡本 本当にお客さまのためを思うなら、そのくらいの覚悟を持ってやりなさいということですよね。そういう言葉に、いつも奮い立たされています。

 あと、こういう仕事をしていると、トラブルに巻き込まれることもあるんです。以前、ある会社の売り主のコンサルティングをしていたとき、ずいぶん長い期間、心血を注いで嫁入り先を探していたんですが、その会社が僕らに内緒で別のコンサルティング会社とやり取りをしていて、直前になってあっさり鞍替えされたことがあって……。

池井戸 あんなに親身になって考えたのに、いきなり最後にトンビに油揚げをさらわれた。あのときのことは、今でも夢に見ますね。で、「許さんぞ!」と(笑)。

岡本 「信義にもとる相手にはペナルティーを課せ!」っておっしゃいましたよね(笑)。僕らのアドバイス力が弱かったのかもしれないけれど、こちらも命がけで取り組んでいる以上、やっぱり筋違いじゃないかと、僕も思いました。

 でも、その会社も何とか窮地を脱して滑り出してはいるようで、僕らのところにもときどき情報が来ますから、またこの先、お客さまとして相談を受ける機会もあるかもしれません。

「この人のために働きたい」が原動力

池井戸 いろんなことがありますが、やっぱり事業の世界は面白いですよ。世の中に直に触れている感じが。ここから小説のネタを取ろうとは思っていませんが、現実から得るシズル感は、創作の刺激になります。

岡本 ええ。僕が仕事をしていてうれしいと感じるのは、事業承継をお手伝いさせてもらったあと、経営者の方や、嫁入り先で働いている従業員の方々から「あのバトンタッチがあって、本当によかった」と言ってもらえたとき。

 事業としては、うまくいくケースも、思っていたほどに伸びない場合もありますが、新しい会社で働くことになった人が、リストラにも遭わずに楽しく働けているというのが、いちばんいいこと。

 それに、仕事というものは、やっぱり会社だけで成り立っているものではなくて、働く人の家族や友人といった個人的なつながりに支えられていて、そのことで経営者は頑張れるわけですから。

 映画『空飛ぶタイヤ』でも、長瀬智也さんの奥さん役の深田恭子さんが、「まだすべて終わったわけじゃないでしょ、社長さん」って言うじゃないですか。あの場面が、本当に……。

池井戸 好きなんだ(笑)。

岡本 はい、えーと、そうです(笑)。でも僕も、赤松社長のように、従業員や取引先の方のことをいの一番に心配される経営者には、やはり心を動かされます。

 長年育んだ自社の事業だけでなく、周囲の方々にも気配りされる方は、当たり前ですが、お金以外の事業の価値をきちっと認識されている。日本にはまだそんな経営者が少なからずいて、お会いすると「この方のためなら……」と、思ってしまうんです。

池井戸 こうやってどんどん深入りしていく岡本さんを現実面でサポートするのが、僕の役割だということですね(笑)。いつか、岡本さんの話でも小説が書けそうな気がします。

事故か、
©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

事件か。
累計180万部突破の大ベストセラー
池井戸潤作品 初の映画化!

映画「空飛ぶタイヤ」 6月15日(金)全国公開

http://soratobu-movie.jp/


 ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故。整備不良を疑われた運送会社社長・赤松徳郎(長瀬智也)は、車両の欠陥に気づき、製造元である大手自動車会社のホープ自動車カスタマー戦略課課長・沢田悠太(ディーン・フジオカ)に再調査を要求。 同じ頃、ホープ銀行の本店営業本部・井崎一亮(高橋一生)は、グループ会社であるホープ自動車の経営計画に疑問を抱き、独自の調査を開始する。 それぞれが突き止めた先にあった真実は大企業の“リコール隠し”――。
 池井戸潤が、「ぼくはこの物語から『ひとを描く』という小説の根幹を学んだ」という程に思い入れのある原作の映画化に、日本を代表する豪華キャストたちが大集結!
 果たしてそれは事故なのか事件なのか。 正義とはなにか、守るべきものはなにか。
 観る者すべての勇気を問う、世紀の大逆転エンタテインメント!