「メディアの皮膚」と名づけられたそのケータイは、確かに呼吸をしているようだ。手のひらに載せると、どこかしっとりとした温もりがあって、このハイテクの塊が、体や思考の一部であることを再認識させられる。
デザイナーズケータイは世の中に溢れているが、吉岡徳仁が手がけると、それはまったく新しいアートになる。逆にいえば、新しくなるから、吉岡がやった。「本気になればなんだってできる」。ケータイの肌に塗られているのは、おしろいだ。デザインしたのは形だけではない。音や光、触感、そして情感である。
国内外の多くの批評家が、作品に「詩的」という言葉を与えて絶賛する。モノであろうがスペースであろうが、あたりの空気をするりと巻き込んで歌い始めるのだ。その歌が聞こえた途端、すっかりはめられたと天を仰ぎたくなる。透明な残影だけが後を引く。
「雲の色が白として視覚に映るように、透明な人工物の重なりで自然の色を演出する」。そうだ、記憶の中の映像が再現されているからだ。そんな吉岡の挑戦的な創造性を前に、われわれはほとんど無防備だ。
「絵を描くことだけは誰にも負けたくなかった」という小学校2年生の息子に父が言った。「画家よりデザイナーがいいんじゃないか」。その言葉の記憶に誘われるように進んだ。今、アーティストに昇華しようとしている。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)
吉岡徳仁(Tokujin Yoshioka)●デザイナー・アーティスト。1967年生まれ。2002年に発表した「Honey-pop」(写真)をはじめとする作品は、ニューヨーク近代美術館など世界の主要美術館に永久所蔵されている。2006年度芸術選奨新人賞など受賞多数。この春auから「MEDIA SKIN」が発売された。