綿密な下積み捜査を重ね、関係先の家宅捜索などに着手。収集した証拠などの分析から起訴に向けた本格捜査はこれからだ。現時点で久保木容疑者がすべてに関与したとは断定できないが「自分の勤務時間中に入院患者が亡くなると、遺族へ説明するのが面倒だった」と供述するなど、無差別大量殺人である可能性が濃厚となってきた。

守受刑者、弁護士の接見で一転否認

 一方、2001年1月に発覚した仙台の北陵クリニック筋弛緩剤点滴事件を振り返ってみよう。

守受刑者と阿部弁護士による著書
守受刑者と阿部弁護士は著者も出して冤罪を訴えていた

 宮城県警に逮捕された守大助受刑者は1件の殺人罪と4件の殺人未遂罪に問われたが、7月に仙台地裁で開かれた初公判以降、一貫して無罪を主張。直前の6月には『僕はやっていない!仙台筋弛緩剤点滴混入事件 守大助勾留日記』(明石書店)を出版するなど、冤罪(えんざい)を訴えていた。最高裁は08年2月、上告を棄却した。千葉刑務所に収監された後も無実を訴えて再審請求し、仙台高裁に棄却されたため、現在も最高裁に特別抗告中だ。

 意外に知られていないが、守受刑者は逮捕前の任意聴取で容疑を認めていた。当初、逮捕容疑以外にも「誰でもよかった」「他の患者にも筋弛緩剤を投与した」などと述べ、動機についても「クリニックでの待遇に不満があった」と具体的に供述。日頃から賃金面やクリニックの経営方針について、家族に不満を漏らしていたとされる。

 風向きが変わったのは逮捕から4日後。「とにかく無罪を主張する」(宮城県警元幹部=事件当時)という阿部泰雄弁護士と接見してからだ。元幹部が「ミスター無罪」「あのお方」などと揶揄(やゆ)して呼んでいた阿部弁護士は、証拠の不備を突く名手で、仙台地裁では同時期、阿部弁護士が担当した事件で無罪判決が相次いでいた。

 守受刑者は阿部弁護士と接見した1月9日午後以降、一転して否認に転じる。阿部弁護士は接見から数日後、記者団に「守君に『やっていないならやっていないと言いなさい』と告げたところ、彼は『先生、僕、やっていないんです。やってないって言っていいんですね』とすっきりした顔になった」という趣旨の説明をしていた。前述の「僕はやっていない!」は阿部弁護士との共著だ。