前述の元宮城県警幹部は当時「供述は具体的かつ整合性はあったが、死刑の可能性さえある事件。やってしまったことを後悔しつつも、怖くなって一か八かに賭けたのだろう。現職の警察官である父親や家族、同棲し結婚の約束もしていた恋人などへのさまざまな思いがあったのではないか」と推測していた。

常道になった「状況証拠の積み重ね」

 両事件の共通点は「点滴」「医療従事者」「無差別大量殺人(未遂)」ということだ。加えて、仙台の筋弛緩剤点滴事件以降、今では一般的になった「状況証拠の積み重ね」という捜査手法で立件にこぎつけた点だろう。

 北陵クリニックの事件で、宮城県警は「消去法」で容疑者を絞り込んでいった。まず外部から侵入した第三者が混入した可能性を潰す。内部犯行と特定し、(1)患者の容体が急変した時間帯に勤務していた職員、(2)患者と接触があった職員、(3)筋弛緩剤を手にできる職員――などの条件で検討した。

 絞り込んだ結果、1人の男性准看護師が浮上した。守受刑者が最初に逮捕されたのは2000年10月、急性虫垂炎の疑いで入院した小学校6年生の女児=当時(11)=の点滴に、筋弛緩剤を混入した事件だ。それ以前にも守受刑者が勤務中に患者の容体が急変することが多く、記録が残っているだけで20人前後が不審な容体急変となり、計10人が死亡していた。

 疑いを抱いたクリニックが宮城県警に相談し、県警が守受刑者の動向に注意するようアドバイス。万が一、患者が不審な急変をしたら、検体を採るよう指示していた。

 しかし、事件の発覚は最悪だった。事件は防げず、意識不明になった女児の血液や点滴溶液からは、筋弛緩剤の成分が検出された。女児はそのまま植物状態になり、29歳となった今も眠りから醒める気配はないという。

 大口病院の事件では、仙台の事件と同様、当初から内部犯行が疑われていた。