「何かおかしい」――。院内では久保木容疑者の逮捕容疑となった事件の半年前から、ナースステーションで看護師のエプロンが切り裂かれ、飲料のペットボトルに漂白剤が混入されたり、患者のカルテがなくなるなど、“異変”が相次いでいた。

「ちょっと多いんじゃないか」――。ホスピスのような病院とはいえ、この時期は死者が多く、いつもより霊柩車の出入りが頻繁だったとの証言もある。

 神奈川県警特別捜査本部は公判維持をにらみ、「犯人しか知りえない事実」に関わる詳細を明らかにしていない。

 しかし、逮捕容疑のほか、今後、立件するとみられる余罪について、久保木容疑者が勤務終了直前の引き継ぎ時間帯であることや、自然死を装うため長期入院患者をターゲットにしていた疑いがあるとみている。

 いずれも、患者の容体が急変した時間帯に勤務していた医療従事者を絞り込み、何らかの作為ができた可能性がある人物を特定した結果だった。

短絡的な犯行、不可解

 大口病院の事件では、証拠(検体)が残っているのは逮捕容疑となった西川さんを含め、4人分だけ。北陵クリニックの事件も「20人が不審な容体急変、10人が死亡」とされたが、結局、立件されたのは証拠が残っていた89歳女性への殺人罪と4件の殺人未遂罪だった。前述の宮城県警元幹部は「正直、悔しい。やれるだけのことはやったが、証拠がなく立件できなかった方々には心からおわびし、手を合わせている」と話していた。

 捜査当局の「供述が最高の証拠」とされたのは、“大昔”のことだ。

 その当局の思想が冤罪を生む背景にもなってきた。供述があっても、証拠がなければ有罪になる時代ではない。大口病院の事件も「立件できるのは4件だけかもしれない」との憶測が広がる。それでも「殺人罪4件なら死刑」なのは間違いない。

 ただ、神奈川県警特別捜査本部の懸念は「仙台の事件のように、ややこしい方(弁護士)が出てこないかだ」という。