一般にCRE戦略(企業不動産戦略)というと、老朽化した工場や遊休地などを処分して財務を改善する戦略だと思われがちだ。しかし実際には、稼働中の資産を有効活用する“攻め”の戦略も多くの企業が実践しているという。CRE戦略の最新事情に詳しい一般財団法人日本不動産研究所に聞いた(取材・文/渡辺賢一)。

社員の「働きやすさ」も
CRE戦略の重要なキーワードに

 企業がCRE戦略に取り組む目的は、バブル崩壊以降の四半世紀で大きく様変わりした。本業の業績不振を補い、財務を改善させるために、手持ちの不動産を売却・賃貸するという取り組み方は、現在もCRE戦略の主流のひとつではある。

 しかし、CRE戦略の最新事情に詳しい一般財団法人日本不動産研究所 資産ソリューション部の中島徳克次長によると、「環境への対応やCSR(企業の社会的責任)といった新たな社会ニーズの高まりとともに、企業のイメージアップのためにCRE戦略に取り組む企業も増えている」という。

「この観点でのCRE戦略には”攻め”と”守り”の2つの側面があります。”攻めのCRE戦略”の一例としては、新しく建設する本社ビルにバリアフリーやユニバーサルデザインを取り入れたり、環境配慮型の建材や工法を用いたりして、企業のイメージ向上を図るという事例が挙げられます。一方、”守りのCRE戦略”とは、稼働していない不動産の管理コストをいかに削減するかという財務的な損失や、ずさんな管理で企業イメージが毀損するなどのリスクを回避することです」(中島次長)

 環境にやさしい施設への建て替えも”攻めのCRE戦略”のひとつ。同研究所は日本政策投資銀行と共同で、「環境・社会への配慮がなされた不動産」を認証する「DBJ Green Building認証」を行っているが、その申請は年々増えているという。

「建物そのものが環境に配慮されているだけでなく、そこで働く人たちに、働きやすい環境が提供されているかどうかも認証基準のひとつとしています」と、同研究所 資産ソリューション部 資産活用推進室の倉地真一室長は説明する。つまりこの認証の取得は、主力工場や本社ビルを一新することは、人材難の中でもできるだけ多くの優秀な人材を確保する手段にもなるのだという。

「かつては、階ごとに部署を配置する縦長のオフィスビルが好まれた時代もありましたが、現在では広大なワンフロアにすべての部署を配置する本社ビルが増えています。古いトレンドに合わせて建てた本社ビルを第三者に賃貸して、最新のニーズに対応したビルに移転し、安定的なキャッシュ(賃料)を得ると同時に、企業としてのイメージアップや人材確保を促すCRE戦略も考えられるわけです」(中島次長)