全日本空輸(以下、ANA)は、国際線の予約システムを、スペイン企業のアマデウスITグループが提供するクラウドサービスへ移行する。これにより年間約10億円のコスト削減効果を見込むが、その目的はコスト削減だけではないと、同社業務プロセス改革室長(前IT推進室長)の幸重孝典氏は言う。アウトソースの狙いやIT戦略について、幸重氏に聞いた。

国際線のビジネスモデルの変化が
欧州のクラウドサービスへの移行の背景に

――ANAでは、国際線の予約システムに、スペインのアマデウスが提供するクラウドサービスのシステムを採用しました。どういった背景によるものでしょうか?

ゆきしげ・たかのり/全日本空輸株式会社 上席執行役員 業務プロセス改革室長。1955年生まれ。78年全日本空輸入社。営業本部、販売本部などを経て、2000年に国内線ドットコムに設立メンバーとして出向。本社の営業推進本部WEB販売部部長などを務めた後、全日空システム企画への出向を経て、09年4月執行役員IT推進室長に就任。11年6月から上席執行役員。組織改編により12年4月より現職。

 ITの世界では、システムを自社で構築する「自前主義」から、(自前のシステムを持たず、既存のサービスを活用する)「利用主義」への移行が進んでいます。航空業界は、アライアンスを組み、さまざまな航空会社と連携しながらシームレスな国際線サービスを提供しているので、昔からチケットの予約や発券システムなどを含めたグローバルな通信ネットワークの標準化や共有が進んでいました。もともと利用主義が浸透していましたが、これまで日本はその流れから外れていたと言えます。

 当社の国際線のシステムは、25年前に国際線に参入する際に構築したシステムをずっと使っていたのですが、競争が激化するグローバル市場で勝ち残るために、自前主義からより合理的な利用主義への移行が必要だと考えました。

――なぜアマデウスを選択されたのでしょうか?

 アマデウスのシステムは、世界の航空業界向け共通システムのビッグ3の一角を成しており、私たちはこれを「究極のパブリック・クラウド」と見ています。同社はもともと、エールフランス航空、ルフトハンザドイツ航空、イベリア航空などの欧州の大手航空会社が出資して作った経緯があり、各社のノウハウが蓄積され、英知が結集されています。