米国の外交が迷走している。NATO首脳会議でトランプが欧州諸国を激しく批判した結果、欧州は、米国のライバルである中国、ロシアに接近している。欧州、中国、ロシアが、反米で一体化する?驚愕の事態だが、過去にも同じことがあった。「米国一極世界」を夢見て、失敗したブッシュJr.の時代だ。(国際関係アナリスト 北野幸伯)
トランプの「プーチン愛」が
米国反ロシア派の怒りに火をつけた
前回記事(「トランプの暴走は『中東大戦争・世界経済危機』を起こしかねない」)で詳細に触れたが、トランプは7月11日、ブリュッセルで開催されたNATO首脳会議で、他の加盟国、とりわけドイツを名指しで批判した。
欧州の首脳たちを叱りつけて上機嫌のトランプは7月16日、フィンランドでプーチンと会談。トランプとプーチンは、誰もが驚くほど「和気あいあい」で、米ロ関係は大きく改善されたように見えた。
同日、トゥスクEU大統領は北京にいた。トランプ貿易戦争のターゲットになっている欧州と中国が、共闘していくことを確認したのだ。この時点では、米ロは接近、欧中は反米で一体化という構図になっている。
ところが、米国の反ロシア派(全民主党、共和党反ロシア派、国防総省、国務省官僚、反トランプ・反プーチンマスコミ、諜報機関など)は、トランプとプーチンの和解を認めない。
トランプは米ロ首脳会談後の共同記者会見でロシアによる選挙介入について聞かれ、「プーチン大統領がたった今、ロシアじゃないと言った。これははっきり言おう。ロシアである理由が見当たらない」と答えたが、これが大問題になった。「自国の諜報機関より、プーチンを信用するのか」と。
トランプは、すぐにこの発言を訂正せざるを得なかったが、それでも反ロシア派の面々は許さなかった。米国反ロシア派は、米ロ関係をぶち壊すべく行動を開始。ロシアに追加制裁することを決める。
<米政府は8日、英国で3月発生した神経剤ノビチョクを用いた元ロシアスパイ暗殺未遂事件について、ロシアが関与したと断定し、新たな制裁を科すと発表した。>(毎日新聞8月9日)
米国はこの件で、すでにロシア外交官を60人追放している。今度はさらに、ロシアに経済制裁を科すという。制裁は2段階からなり、第1段階では、米国がロシアにエンジン、電子回路部品など国家安全保障に関わる物品を輸出することを制限する。第2段階の詳細はまだはっきりしないが、ロシアでは「これまでにないほど厳しいものなる可能性がある」と報じられている。