同盟国を敵に回したG7首脳会談から、北朝鮮との歴史的な首脳会談、さらには高関税の脅しをかける中国との通商戦争など、トランプ外交が世界を翻弄している。もっとも、破天荒に見えるトランプ外交には、20世紀初頭の共和党への先祖返りを感じさせる側面がある。実際に、最近の共和党の支持者には、トランプ外交に共鳴する気配すら感じられる。「トランプ化」が進む共和党に、もはや同盟国は頼れないのかもしれない。(みずほ総合研究所欧米調査部長 安井明彦)
トランプ外交「3つの原則」
冷戦型価値観外交からの大転換
米国では、猛威を振るうトランプ外交に何らかの原則を見出そうとする議論がある。なかでも注目されるのが、米有力誌のアトランティックが電子版に掲載した3つの論評だ。そこから浮かびが上がるのは、一見すると破天荒なトランプ外交を貫く3つの原則である。
第一の原則は、イデオロギーよりも実利を優先する姿勢である。政治ジャーナリストのピーター・ベイナートは、6月14日のアトランティック誌電子版に掲載された論評で、トランプ外交を共和党の外交姿勢の歴史的な変遷との関係から論じている。その分析によれば、実利を優先するトランプ外交のあり方は、20世紀後半の冷戦期に主流だった共和党の外交姿勢からの大転換として位置づけられる。
冷戦期の共和党では、民主主義や自由経済といったイデオロギー面での判断が、外交政策を決定する際の重要な指針となり、同盟国との関係が重視されてきた。いわば、冷戦型の価値観外交である。しかしトランプ大統領の場合には、そうした価値観は軽視されている。通商政策では同盟国を敵に回す一方で、イデオロギー面では相容れない北朝鮮との首脳会談に臨んだ上に、ロシアとの関係改善にすら色気を見せている。
第二の原則は、米国の力に対する圧倒的な自信と自負である。アトランティック編集長のジェフリー・ゴールドバーグは、6月11日に同誌の電子版に掲載された論評で、最もトランプ外交の特徴を捉えた表現は、「我々は米国だ、文句あるか!」だと指摘している。圧倒的に強い力を持つ米国は、同盟国や国際機関に配慮する必要はなく、黙って言うことを聞かせればよい、という姿勢である(ちなみに原文では、「文句あるか!」の部分に激烈な俗語が使われているが、ここでは意訳している)。