ななつ星開業後に届いた一通の手紙
お客さまに元気と感動を、とつねに考えていると、想像力やアイデアが自然と湧いてくるものだ。
ななつ星のクルー(乗務員)たちは、お客さまが何を求めてこの列車に乗られているのかをつねに考える癖がついている。
彼らのオフ会などに参加してみると、クルーのOB、OGも交えながら、いつまでも飽くことなく議論をしている。
「ななつ星らしい特別なサービスとは何か?」
「ななつ星のお客さまにとって最も嬉しいことは何か?」
「走りはじめたときと現在で、変わってしまったことはないか?」
私などは、ときおり飛んでくる質問や意見に心中備えながら、目を細めるばかりである。 そんな、ななつ星が走り出して間もないころ、旅を終えたお客さまから一通のお手紙が届いた。
3泊4日の旅ではたいへんお世話になりました。特にクルーのWさんには感動の涙をいただきました。それは……いまは亡き夫と30年前に由布院を訪れた際、二、三日前よりの大雨で豊後竹田(たけた)には行けず、バスで迂回をした思い出話をしました。それを聞いたWさんは、ティーセットを2個用意し、かぶっていた帽子をテーブルに置き、「ご主人様と思って、開通した線の旅景色を楽しんでください」と言われ、去ってゆきました。私は感動で涙しました。