「世界一を目指すことなくして、日本一にはなれない!」
一般的な感覚であれば、いわゆる無茶振り(!)にしか聞こえないセリフかもしれません。
『感動経営』の著者であり、JR九州会長である唐池恒二さんのこの信条(モットー)に当初から大いに共鳴し、多くのプロジェクトでタッグを組み、幾度となく新たなチャレンジと成功譚を繰り広げてきた“パートナー”がデザイナーの水戸岡鋭治さん。
JR九州が発足した1987年当時、九州にはまだ影も形もなかった新幹線、同社の代名詞たる数々の「D&S(デザイン&ストーリー)列車」、そしてななつ星。さらには同社の多角事業の象徴である外食事業、船舶事業、駅、ホテル、そしてまちづくり。
この二人が携わったプロジェクトは九州を超え、日本全国に大きな驚きと感動を提供し、そして鉄道デザインとビジネスモデルを評価する世界的権威である「ブルネル賞」を7度にわたり受賞するなど、海外でも高い評価を得るに至っています。
そしてそして、実はお二人の最新のプロジェクトともいうべきものが、実はこの『感動経営』なのです。
数々のお仕事同様に唐池さんのディレクションを伴うかたちで、『感動経営――世界一の豪華列車「ななつ星」トップが明かす49の心得』の装丁とデザインを水戸岡さんが手がけてくださったのです。
おふたりの代表作といえばなんといっても、クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」。ブルネル賞をはじめ、数々の世界的評価と未曾有のインパクト、そして感動を更新しつづけるこの「ななつ星」誕生のサイドストーリーにあった経営者のワザとは!?
『感動経営』発刊記念特別対談のVOL.2は「寝返った運輸部長」。
ではどうぞ!(編集・構成/ソメカワノブヒロ)

「ななつ星」に大反対の運輸部長を「ななつ星」の責任者に据えたらどうなった?過去最高人事の顛末JR九州会長・唐池恒二氏(右)とデザイナーの水戸岡鋭治氏(左)(提供:JR九州)

反対派をプロジェクトリーダーに任命!

水戸岡(前回も)お話ししたけれど、唐池さんは経営者としてはたいへん珍しいロマンチストなんですよ。
 そしてスパコンみたいに頭の回転が早く、整理された言葉でアウトプットされる。だから、ほうっておくと周りの人がついていけなくなることがある。その最初にして、典型的な例がきっと「ななつ星」だったんです。

唐池(複雑な笑顔で沈黙)

水戸岡 褒められすぎると困ってしまう性質(たち)でしたね。失礼しました(笑)。

水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)
インダストリアルデザイナー、イラストレーター
1947年岡山県生まれ。「ななつ星 in 九州」では九州の新たな魅力を示す原動力となるデザインを次々と展開。職人的かつアーティスティックな描画力に加え、国内外における豊富なデザインの経験量に裏打ちされたプランニングと設計の独創性はまさに唯一無二。ブルネル賞、毎日デザイン賞、菊池寛賞など受賞歴多数。『感動経営』では装丁・本文デザインを担当した。

 僕はななつ星プロジェクトの当初から、夢とロマンに溢れたプロジェクトをちゃんと現実地点に着地させる優秀な事務方が必要だと思っていました。

唐池 僕はセンセイみたいにそういう高尚なことは考えていませんで(笑)。豪華列車反対派の急先鋒なんだけど、かつ鉄道全般に超くわしい、当時運輸部長だった古宮洋二(ふるみやようじ)さんを配置転換して、「ななつ星」のプロジェクトリーダーに据えたら面白かろうと、そう思ったんですな。

水戸岡 反対派を賛成派に配置転換。まさに会社のトップ、社長だからできる人事でした。僕は「うわー、いい人がこちら側にきてくれた!」と拍手喝采でしたよ。

唐池 「ななつ星のプロジェクトリーダーは君だ!」と内示をしたときには、古宮さんは心底驚いた顔をしましたね。
 その後すぐに、「そういえば、カライケはこういう人間だった」といわんばかりの苦笑を浮かべていましたけど。

「ななつ星」に大反対の運輸部長を「ななつ星」の責任者に据えたらどうなった?過去最高人事の顛末「ななつ星」専用ラウンジ「金星」で出されるウエルカムドリンク(以前は宮崎・都農ワインの赤のスパークリング)
唐池恒二(からいけ・こうじ)
九州旅客鉄道株式会社(JR九州)会長
1953年大阪府生まれ。鉄道会社にもかかわらず、鉄道以外の事業(船舶、外食、不動産、農業など37グループ会社)の売上を6割にして、赤字300億円のどん底から黒字500億円に躍進。本業でも、D&S(デザイン&ストーリー)列車、日本初のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」でヒットを連発。2016年東証一部上場。最新刊に『感動経営』がある。