目標とされている「シナジー効果」と
「上場親子会社」は矛盾する

 ADEKAと日本農薬の経営陣が述べたもう1つの理由は、51%支配権がADEKAと日本農薬の「シナジー」効果、相互利益の実現をもたらすというものである。

 しかし、この議論は多くの理由で真剣に受け止めることは難しい。そもそも、ADEKAと日本農薬は全く異なる製品市場区分に属する。

 また、たとえADEKAがシナジー効果を生み出すために労働力、設備、技術を生産性よく共有できたとしても、そのようなシナジー効果に関する取り決めはADEKAによる支配権取得によらなくても2社による契約によって簡単に達成することができる。

 そして3つ目の最も重要な点として、「上場子会社」所有権構造に内在する利益相反が、実際にはシナジー効果達成という目的を“なし崩し”にすることだ。

 なぜか。シナジー効果においては、どちらがより多く利益を得るかということでいちいち立ち止まって計算することなく、2社が労働力、設備、技術を自由かつ臨機応変に共同資源として提供することが必要である。

 親企業と完全子会社との間のシナジー効果は、どちらが「損をするか」ということとは関係ないため、容易に達成することができる。しかし「子会社」に少数株主がいれば、「損をする」かどうかは常に問題である。

 例えばADEKAが日本農薬に「日本農薬の新技術を見せてほしいのでチームをよこせ」と言ったとする。日本農薬は「技術の共有に対していくら払ってくれるのか」という質問をせずに正当に合意することはできない。ADEKAに技術を無償提供することは、日本農薬の少数株主から“盗み”を働いていることになるからだ。シナジー効果と「上場子会社」を合わせることはできないのである。

合法かつ割安で
支配権を取得する工夫

 このような結末はさておき、ADEKAが日本における既存の法の枠組内で日本農薬の株式保有割合を23%から51%に格安で引き上げ、一方で一般株主を価値の減少した召使い企業の少数株主として彼らの意思に反して置き去りにした“方法”は、海外では決してうまくいかなかっただろう。

 繰り返すが、これは海外の証券取引法と会社法が少数株主の保護において日本の法令よりも効果的なためである。

 ところで、所有割合を51%まで引き上げるための株式追加取得を格安に行うため、ADEKAは日本の大手法律事務所が数年前に考案した巧妙な2段階方式を採用した。

 第1段階は株式の公開買い付け(TOB)であり、ADEKAが51%所有権を得るために必要な追加株式の一部を、日本農薬の株主から最新市場価格にプレミアムを上乗せした価格で買い取るというものである。

 具体的に、ADEKAは一般株主から日本農薬の公開株の18%までを1株900円で購入すると持ち掛けた。これは当時の最新市場価格1株670円に34%のプレミアムを付けた金額である。

 第2段階は第三者割当増資の引き受けであり、ADEKAは日本農薬から新規発行株を株式公開買付の1株900円ではなく、取引公表の前日終値である1株670円で取得した。その結果、ADEKAは2つの取引を通じて、全て公開買付で購入するよりもはるかに低い平均価格で日本農薬の支配権を得ることができた。

一般株主は
なぜ怒っているか?

 日本農薬の一般株主の立場になってみれば、彼らの怒りの理由が理解できる。

 株を1株900円で売却する機会は、当時の最新市場価格の1株670円に比べると魅力的である。特に取引後には日本農薬がADEKAの「召使い」企業となり、2度と高い収益をもたらすとは考えられない状況においてはなおさらである。持ち株の全てを 1株900円で売却し、手を引きたいと考えるだろう。

 だが、ちょっと待ってほしい。

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