これはちょっとコンセプチュアル。医療はどんどん進化し、より高度になっていく。見えないものが見えるようになるとか、分からなかったことが分かるようになるとか、治せなかったものが治せるようになるときには、進化を司っている技術があります。これまでの数十年はそれがエレクトロニクスとか、メカトロニクスとか言われている世界でした。

 例えば医療の世界において、この50年間で最もエポックメイキングだった医療技術の進化はCT(コンピューター断層撮影装置)、MRI(磁気共鳴画像診断装置)。それに代わるようなエポックメイキングな技術が登場しそうですよね。再生医療、ゲノムフルシーケンス(ヒト全ゲノム解析)とか。そうしたバイオテクノロジーとかライフサイエンスの技術進化を支えたい。

――そこは出遅れた?

 確かに出遅れているので、力を付けていかないといけない。夢のあるエリアです。

――技術進化による広がりという点で、臨床検査機器の世界大手のシスメックスは川崎重工業と手を組み、国産第1号になるだろう手術支援ロボットを開発しています。彼らは技術進化の波を捉え、治療の世界へ入っていく。正直、なぜこのポジションにいるのがシスメックスで、医療画像診断国内最大手のキヤノンメディカルではなかったのかと――

 「やればいいのに」と思っているわけね(笑)。

 われわれが若い頃、「無侵襲非観血」へのこだわりを聞かされてきました。体に侵襲性のないもので、血を見ないものであること。まあ、その割には血液検査はやっているんですが。

――治療そのものには不可侵であれと。それは今も納得感のあるもの?

 カルチャーとしては、まだ残っている。技術が変わることで、それを乗り越えることはできるのかもしれないなって徐々には思っていますけど、足を踏み出すという決断にはなってないですね。

――キヤノンの御手洗冨士夫代表取締役会長CEOともこの点は話しているのですか。

 治療の世界に足を踏み出すかどうかは、御手洗さんと私、双方ともちょっとネガティブ。御手洗家は医者の家系で医者の知り合いがたくさんいて、御手洗さんは彼らからいろいろなことを聞いている。御手洗さん自身の中にある種の価値観があって、医者がやっていることを人工的に置き換えてビジネスとしてやるのは並大抵ではないと認識している。そう私は解釈しています。

――線を引いたままでいくと?

 今のところはね。日本の社会は使用者側の自己責任をあまり大事にしないで、サービスを提供する側が責任を持つ。西欧流はちょっと違って、サービスは受けた自分の側に選ぶ権利があって、それに伴う責任があるという認識。日本の感覚が間違っていると必ずしも思わないんですが、治療に対して慎重になるというのは、そうしたものも関係しているのでしょう。

――IT業界から希望を持ってヘルステックの世界に近年入ってきた人たちは、そこでのビジネスを実現することに今、ものすごく苦しんでいます。