また、保守派が考える「古き良き日本の伝統」(第144回)よりも、産業競争力を重視する「働き方改革」「女性の社会進出の推進」(第177回)や事実上の移民政策(第197回)、社会民主主義的な傾向が強い「教育無償化(第169回・P.3)を推進してきた。

 もちろん、安倍政権は「特定秘密保護法」(第72回)「安全保障法制」(第115回)「テロ等準備罪(共謀罪)法」(第160回)と、安全保障政策を推進してきた。だが、「最もやりたい政策」であるはずの「憲法改正」は、「自衛隊」の名前を条文に明記するだけで、実質的にフルスペックの集団的自衛権を行使する「国防軍」の創設を諦める内容だ(第194回・P.4)。

 要するに、安倍政権は世論の動向に極めて敏感に対応してきた(第194回)。それは、コアな支持者であるはずの保守派に「安倍政権の左傾化」と批判されるほどなのだが、政権を維持するためには、少数のコアな保守派よりも、日本の有権者のボリュームゾーンであり、野党と票の奪い合いになる中道層に向けた政策を打ち出すほうがいいという現実的な判断だろう(第169回・P.3)。また、少子高齢化が進む日本で、伝統ばかりを重視する保守派の意向をまともに聞いていたら、国家として衰退の道しかなくなるという危機感かもしれない(第185回)。

 他国でも、極右政党が政権入りしたら、次第に同じような「現実化」が起きていくだろう。むしろ、もう移民が社会・経済システムに完全に組み込まれており、国境を越えた移動も当たり前の国が多いわけだから、日本よりも容易に極右政権の現実化は起こり得る。既に、ボルソナロ大統領など、就任直後に経済政策の公約の修正を示唆したといわれる。だから、筆者は「政権をやらせてみればいい」と思うのだ。

英国のEU離脱のプロセスで
起こった政治の「現実化」

 英国のEU離脱のプロセスで起こっていることも、民主主義における「現実化」そのものだ。そもそも、英国はEU離脱を「国民投票」という「直接民主主義」の手法で決めた。国の運命を左右する重大な問題を国民投票で決めるべきではないという主張があるが、筆者はそれを支持しない。

 まず、この国民投票の成果として、ほとんど指摘されることがないが、「新自由主義的な政策」の振り返りの機会を与えたことである(第135回・P.3)。英国では、マーガレット・サッチャー政権以降、新自由主義的な政策志向の政権が続き、それは「英国病」と呼ばれた衰退から英国を見事に復活させた。