日本外交に暗雲が立ち込めてきた。日朝首脳会談についての調整は、水面下で進んではいるのだろうが、一方でCVID(「完全」かつ「検証可能」で、不可逆的な核廃絶)は進んでいない。ドナルド・トランプ米大統領は「ゆっくりやればいい」と述べ、非核化の長期化を容認する姿勢を示している。また、3回目の南北首脳会談が決まり、文在寅韓国大統領は経済協力に前のめりの姿勢をみせているという。「日本蚊帳の外」(本連載第186回)が、現実化しつつあるようだ。
日露関係も進展がみられない(第147回)。安倍政権は、北方領土問題解決に向けた経済協力などの協議を進めたいが、ロシア側は、「協議は、クリール諸島(北方領土と千島列島)がロシアに帰属するという事実に立脚して進められる」とする立場を堅持し、膠着状態が続けている。
そして、日米関係である。安倍晋三首相とトランプ大統領の「ドナルド・シンゾー関係」という個人的に緊密な関係によって維持されてきた(第170回)。しかし、それも限界が見えてきたようだ。大統領は、中国、EU、メキシコ、カナダなどとの「貿易戦争」をエスカレートさせ、一定の成果を得てきている(第191回)。
トランプ大統領は、ウォールストリート・ジャーナル紙の取材に対して、安倍首相との関係が良好であると前置きした上で、「(赤字解消に)日本がどれだけ支払うべきなのかを伝えた瞬間、良い関係が終わる」と警告を発したという。遂に日本に「貿易戦争」の矛先が向けられてきたといえる。
このように、日本外交の先行きは問題山積という感じである。しかも、「アメリカファースト(米国第一主義)」の実態が次第に明らかになってきた(第181回・P.4)。自民党総裁選の「連続3選」も確実な今、安倍首相は「歴史に名を残す」ような大戦略を、世界に打ち出してはいかがだろうか。
「米国抜き」の仕組みづくりを
具体的に考えてみる
この連載は、「アベノミクス」を酷評してきたが(第190回)、一方で安倍首相の外交は概ね適切と考えてきた。トランプ大統領一家への「接待」を中心とする「超対米従属」の姿勢は、米国が「世界の暴力団」と化してしまうような、国際政治の従来の常識が全く通用しなくなった現状では、仕方ないことだと思う(第145回)。その中で、筆者が安倍外交の戦略的行動として高く評価するのが、「米国抜きの11ヵ国による環太平洋包括連携協定(いわゆる「TPP11」)である。