「元の自分と、それ以降の自分が闘っている。本当の自分ではない。何とかして元に戻らないと…って、闘ってきました。しかし、どうしても元には戻せなかったんです」

 中学1~2年の頃から、他人と自分は違う。他人になじめない、ぎくしゃくしたものを感じるようになった。

 中学2年のとき、陰湿ないじめを受け、仲間外れにされたことがあり、孤立した。以来、人を恐れるようになった。

中学3年のときは、楽しいクラスにしてもらえて、そのまま卒業した。

 最初に話せなくなったきっかけは、高校の入学式前にホテルで行われた1泊2日のオリエンテーション合宿だった。

 最初のクラスメートに自分から話しかけることができなかった。

 ほとんどが知らない人たち。そして、新しい環境に、Aさんは心細さを感じた。

「待っていたんですけど、話しかけてくれなかった。周りでは、ワイワイと仲間を作り始めていたのに、その中に入っていけなかったんです」

 時々、話しかけてくれる人もいた。しかし、なぜか、そこで穏やかに話ができなかった。

 なぜなのか、自分でもわからない。気づいたときには、自分はムスッとしていなければいけないと思うようになった。

 理屈など何もない。黙っていたら、それが定着していった。

 1クラスに50人以上の生徒がいる。

 1ヵ月後、担任に呼び出され、「1人でいるけど、大丈夫か?」と話しかけられた。

 気づいてはいてくれた。しかし、いまから振り返れば、学校側は「緘黙症」のことを認知していなかった。

 Aさんは、最初の1ヵ月間で、どんどん輪に入れなくなり、感情を押さえつけるようになった。

 授業中、先生が面白いことを言って爆笑したりしても、笑っているところを見せたらいけない。何があっても、この表情でいるような練習をした。すると、周りでどんなことがあっても、右から左へ抜けるように、何も感じなくなっていった。