結果として、地面師グループは野に放たれたままになる。捕まったとしても、不起訴になる場合や、なりすまし役などメンバーの一部が罪に問われるのがせいぜいといったところだ。

 とはいえ、こうした絵を描き、詐欺を進められる人間は多くない。複数の大型詐欺事件をたどっていくことで、著者は共通の人物が動いていることを探り当てる。「地面師界のスーパースター」の異名をとる内田マイクや北田文明、なりすまし役を手配する「池袋の女芸能プロダクション社長」の秋葉紘子。彼らの金への嗅覚の鋭さや神出鬼没ぶりを描き、顔がない地面師たちの生態を浮かび上がらせているところも本書の醍醐味のひとつだろう。

大規模な土地を持ってなくても
地面師と関わる可能性ゼロではない

 一般人にとっては無縁の遠い世界の話に聞こえるかも知れないので、最後に本書でも触れているひとつの地面師事件を紹介しよう。地面師集団が死亡した地主になりすまし、都内の土地を不動産業者に売却し、業者は何も知らずに、建設会社に転売。建設会社は戸建ての分譲住宅として、販売した。地面師グループは摘発されたが、詐欺の犯意を裏付けられないと主犯などは無罪放免になり、立件は見送られた。

 地面師事件で怖いのは、所有者が知らない間に売り払われ、転売されれば、本来の所有者であっても、その土地を取り戻せない危険性があるところだ。死亡した女性には身寄りが無かった。土地は国庫に返上されるはずだったが、詐欺に遭い、転売され、建売住宅として販売されており、国は裁判をしたところで負ける可能性が高かったという。事件化しなかったこともあり、現在の住人達は自分が住む土地が詐欺の舞台になったことなど知ることもなく、住み続けている。大規模の土地を持っていなくても、回り回って地面師と関わることもゼロではないのだ。

(HONZ 栗下直也)