調査結果の平均残業時間は月に23時間、残業をしている群だけに限れば27時間です。すなわち、概ね1日1時間から1時間強になりますね。対して、残業80時間の場合は週休2日だとしても1日約4時間になります。

 イメージが湧かない方のために、残業80時間の人の1日をシミュレーションしてみたものが図表1になります。

 まず把握したいのは、残業が1日4時間といっても、人はそれ以上の時間を仕事のために費やしているということです。日本の労働時間は先進国の間でもトップクラスですが、「通勤時間の長さ」が状況をさらに特異なものとしています。
 
 特に、都心部の平均通勤時間は、往復約2時間。これを足すと、睡眠や食事以外の家事の時間や家族とリラックスして過ごす時間が、国際的な水準から見て3割以上少なくなります。

 いかがでしょうか。残業時間こそ「4時間」ですが、通勤時間が加わると、1日「14時間」が仕事にとられています。さらに通勤の準備で1時間、昼休み1時間が加算されると、16時間が仕事関連で消えていくことになります。これでは、平日に家族とゆったり過ごす時間はほぼとれません。図表2にあるように、残業時間が長ければ長いほど、家族と過ごす時間が顕著に少なくなるのです。

 こうした暮らしを続けることは明らかに不可能で、長期的視野に立てば「個人の幸福」とは矛盾するはずです。しかし、このような生活を送っているにもかかわらず、その時点では「幸福感」を抱いている人がいるのです。

 人々の間に生じる、こうした少し矛盾した心理的状態をこの講義では「残業麻痺」と呼び、その実態を具体的に分析したいと思います。