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なぜ某百貨店は、12カ月積み立てると「1カ月分」をタダで上乗せするのか?Photo: Adobe Stock

12万円預かって、なぜ13万円分も使わせるのか?

 某百貨店には昔から、積立サービスがあります。1年積立コースでは、毎月一定額を12カ月積み立てると、1カ月分の積立金額がボーナスとして上乗せされます。

 例えば毎月1万円なら、

 1万円×12カ月=12万円

 そこに1万円のボーナスが加わり、13万円分の買い物ができます。

 一見すると、「百貨店が1万円損している」ようにも見えます。

 しかし、ここで重要なのは、その13万円を現金でもらえるわけではないことです。満期後は、百貨店で使える「お買物残高」になります。

 つまり百貨店は、1万円をプレゼントしているだけではありません。1年後に使う13万円の買い物先を、先に自店へ決めてもらっているのです。

毎月積み立てるたびに、
「百貨店で使う予定のお金」が増えていく

 普通に貯金している12万円なら、百貨店でも、旅行でも、家電でも、自由に使えます。

 しかし積み立てたお金は、満期になると百貨店で使うためのお買物残高になります。すると、お客様の頭の中でも、「貯金12万円」ではなく、「来年、百貨店で使える13万円」という専用予算になっていきます。

 毎月1万円積み立てるたびに、「来年は何を買おうか」「バッグにしようか」「お歳暮や贈り物にも使おうか」
と、百貨店での買い物を考えるようになります。

 つまり積立は、お金を預かっているだけではありません。未来の買い物を、12カ月かけて少しずつ予約してもらっているのです。

1万円のボーナスが、
「他店で買う」という選択を弱くする

 例えば満期になって、13万円分のお買物残高を持っているとします。欲しいバッグが12万円だったら、他の店で同じ商品を見つけても、「せっかく13万円分あるから、百貨店で買おう」と考えやすくなります。

 もし現金12万円だけなら、ネット通販、他の百貨店、専門店、アウトレットなど、どこで買うか自由です。

 しかし13万円分が自店専用の購買力になっていれば、他店へ行くことが、「1万円分のお得を捨てる」ように感じられます。

 つまり1カ月分のボーナスは、単なる値引きではなく、次の買い物先を自店に固定するための理由にもなっているのです。

「一度に13万円使う」のではなく、
「毎月1万円だから続けやすい」

 もう一つ重要なのが、毎月積み立てる仕組みです。例えば、「来年の買い物用に、今すぐ12万円払ってください」と言われたら、大きな負担に感じます。

 しかし、「毎月1万円ずつ」なら、家計の中に組み込みやすくなります。そして12カ月続けるうちに、積立そのものが習慣になります。

 その結果、本来ならその都度、「今年は百貨店で買おうか」と判断していたお客様を、「毎年積み立てて、満期になったら百貨店で買う」という行動パターンへ変えることができます。

 つまり売っているのは、来年の買い物だけではありません。毎年百貨店で買う習慣そのものでもあるのです。

積み立てている1年間も、
百貨店との関係が続く

 積立期間中にも特別ご優待会や、提携ホテル・レストランなどの会員向け優待があります。これも重要です。1年後まで何も接点がなければ、お客様の気持ちは他店へ移るかもしれません。

 しかし、会員になると、積立期間中も、催事を見る、店へ行く、優待を使う、情報を見る、といった接点が生まれます。

 すると満期時には、突然13万円分を渡されるのではなく、すでにその百貨店との関係が続いている状態になります。積立期間そのものが、顧客との関係を維持する時間になっているのです。

ボーナス分以上に使う可能性もある

 例えば13万円分のお買物残高を持っていて、欲しい商品が15万円だったらどうでしょうか?

「13万円あるから、あと2万円出せば買える」と考える人もいるでしょう。

 もし残高がなければ、「15万円は高い」と諦めていたかもしれません。

 しかし13万円分をすでに持っていると判断基準が、「15万円払うか」から、「あと2万円追加するか」へ変わります。

 その結果、ボーナス1万円を付けても、それ以上の追加購入が生まれる可能性があります。百貨店にとっては、13万円分を使ってもらうことがゴールではありません。その13万円を入口に、より大きな買い物へつなげることもできるのです。

他のお店でも使える
「未来の買い物予算を先に囲う」設計

 この考え方は、百貨店以外でも応用できます。

・旅行会社
 毎月1万円を旅行積立として預かり、12カ月積み立てたら、旅行代金に使える1万円分を上乗せする。「旅行に行くか」を毎年考えてもらうのではなく、旅行予算そのものを先に作ってもらう。

・ジュエリー店
 結婚記念日や誕生日に向けて毎月積み立ててもらい、満期時に自店で使えるボーナスを追加する。高額商品を突然買ってもらうのではなく、1年間かけて購入予算を作る。

・家具店
 新築やリフォーム予定のお客様に、毎月積立型の「家具購入準備プラン」を用意する。満期時に自店限定の購入特典を加えれば、完成後の家具購入先を早い段階で確保できる。

まとめ

 この仕組みを販促の観点から整理すると、

・「毎月少額ずつ積み立ててもらい、将来の大きな買い物予算を作る
・積立金を自店で使えるお買物残高にすることで、1年後の購入先を先に確保する
・1カ月分のボーナスを付けることで、他店で買うより自店で使う理由を強くする
・毎月の積立を習慣化し、「毎年この百貨店で買う」という行動パターンを作る
・満期後の残高を基準にして、「あと少し追加すれば上位商品が買える」という追加購入につなげる

 という、「1カ月分を無料であげる」のではなく、その特典によって未来の買い物予算と買い物先を先に自店へ確保する販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。