日本企業にはびこってきた「残業」。近年、世間を賑わせている「働き方改革」を背景に、残業削減の動きは高まってきたが、そもそも残業は私たちの心と体にどのような影響を与えてきたのか。立教大学経営学部の中原淳教授は最新刊『残業学~明日からどう働くか、働いてもらうのか?』の中で、パーソル総合研究所と行った「残業学」という長時間労働をめぐるさまざまな学問を横断した研究について、一般のビジネスパーソン向けに、講義形式でわかりやすく解説している。今回はその中から、長時間労働が健康などのリスクをおびやかしているにもかかわらず、個人の幸福感を高めてしまう現象「残業麻痺」の驚くべき実態を紹介する。
「月80時間以上残業する人」のリアルな生活
Aさん「中原先生、そもそも、残業は本当に悪いことなのでしょうか? うちの会社には、毎日深夜まで残業しているのに、いつもギラギラしてエネルギッシュな営業部長がいますよ!」
Aさん、トップバッターで質問をありがとうございます。
確かに、長時間残業をしているのにいつも元気な方はどの職場にもいますよね。今回の講義では、「残業は個人に何をもたらすのか」という観点から、残業を是正するべき理由について深掘りします。
長時間労働が個人にどのような影響をもたらすのか、調査を通じて大きな発見がありました。端的に表現すると、次のようなワンセンテンスになります。
「超・長時間労働」によって「健康」や「持続可能な働き方」へのリスクが高まっているのにもかかわらず、一方で「幸福感」が増してしまい残業を続けてしまう人がいる
これは、今回の「残業」の実態について調査分析を行う中で浮かび上がった、不可解で不都合な事実です。残業時間と「幸福感(主観的幸福感)」に関する分析をしたところ、月に60時間や80時間以上といった「超・長時間労働」をする人たちの一部は、健康などのさまざまなリスクにおびやかされているにもかかわらず、他の層と比べると幸福を少し強く実感していることがわかりました。