*前編はこちら

「スーパードリームチーム」で
グローバル経営の新次元へ

  今年1月、社長のバトンを足立さんに託し、会長兼グループCEOに就任されました。「船の舳先で先導してきたが、スキッパーのポジションこそ全体を見渡せ、グループをオペレーションするのに最適」とおっしゃっています。グローバル経営のレベルをもう一段上げようということですか。

 社長になって26年、自分がやってきたという自負と、とにかく自分が動かないといけない、という気持ちがありました。しかし、この不安定で複雑な時代に、規模も大きくなったグループのグローバル経営を、社長一人で先導するのではなく、今後は「スーパードリームチーム」で担っていこうと考えています。

 私と、副会長兼グループCOOの齊藤壽一、社長の足立正之の3人の経営トップ層に加え、自動車関連では日米欧の経営幹部による「グローバルATSボード」など、社内にもスーパードリームチームをいくつも群生させて、「ほんまもん」の経営を実現させていこうとしています。

 また、海外のグループ企業の経営トップとのミーティングは、6カ月に1回、必ず実施してきました。毎回100人規模、滋賀県の朽木にある研修所(呼称「FUN HOUSE」)で3日間缶詰めになって集中的に議論し、それぞれがコミットします。

 その後、彼らを世界に放ち、6カ月経ったら、また獲物を持って戻ってこさせる。その獲物がコミットしたものに対してどうなのかを、そのつど、確認していくわけです。江戸時代の参勤交代みたいでしょう(笑)。

  その際、海外からは経営陣が50〜60人集まり、前後の日程を入れると、ほぼ1週間拘束します。時間的、経費的にも大変なコストですが、これを20年以上続けてきた結果、それぞれ異なるマーケットに1000種類の製品があるにもかかわらず、混乱することなく地球の上を動いています。こうしたグローバルなマネジメントを可能にしているのは、これがベースになっていると自負しています。

 つまり、基本はコミュニケーションであり、その中で個人的な信頼関係を構築していくわけですが、厳しい言い方をすると、「裏切らせない、事故を起こさせない」ということでもあります。かなりの自由裁量を認める体制ですが、逆にその分、重い責任を持たせています。ホリバが急成長する中で、これまで大きな事故を起こしていないこと、創業当時のスピリットをいまでも保っていることは、そこに要諦があると信じています。

 社長時代を振り返ると、何が一番つらかったか。何に一番気をつけてきましたか。

 私は30歳代の初めに肝炎になったことがあるのですが、その時に健康とは何かと考えさせられました。一つの臓器でも具合が悪くなると、全体がダメになるのですね。企業も人間の体と同じで、すべてが健全でないと成長しません。

 私が一番苦労したのは、社長就任後の最初の3年間でした。専務時代から実質的にマネジメントはしていたのですが、会社の健康を維持するために、すべての部門にバランスよく人を配置し、海外も含めて対応していたら、3年間減収減益が続いたのです。

 これは社長になったばかりの人間にとって頭が痛い問題であり、実際に偏頭痛にもなりました。「鍼を打っても医者に行っても治らへん」と父に漏らしたら、「そんなもん、3年ぐらい大したことはない。信念でやったら必ず結果が出てくる」と言い放たれたのですが、偏頭痛は相変わらず治りませんでした。

 しかしその後、友人に勧められてカイロプラクティックに行ったら、すっきりと一発で治ってしまいました。実は何のことはなく、冬にスキーで転んだ時に鞭打ち症になっていただけだったのです(笑)。

 そうすると、急に業績まで回復してきました。要は、何かをやるには最低3年はかかるということ。ゴルフのスイングに例えれば、基本を整えた後、きれいにスイングすることに努めていたら、自然に結果はついてくるということなのです。

 むしろ、肝心なのは情報です。私が最初にアメリカに行き、現地法人でメンテナンスを担当していた時に痛感したのは、フロントラインで起きている現実を本社は知らない、ということでした。現場を理解していないにもかかわらず指示を出し、リポートの提出を求めてきました。本社と同じ機能があるかのように、現地法人に理不尽な要求を出すのです。結局本社は何もわかっていない、ということを実感しました。

 もちろん、いまではテレビ会議やメールなどさまざまな通信手段があります。しかし、実際に現地を訪れると、聞いていた話と大きく異なります。〝開けてビックリ玉手箱〟という状態が現実です。それだけ情報というものは、「人に頼るだけでなく、みずから取りにいく」ことが重要なのです。

 情報において、もう一つ気をつけなければならない点があります。それは「発信している人の感覚で情報がフィルタリングされている」ということです。その情報は、私がほしい情報とは異なっている可能性があることを理解する必要があります。

 立場が違うと、ほしい情報も変わります。発信する人の能力だけに頼った情報を鵜呑みにして本社が動いてしまうと、事業は失敗します。それゆえ、私も当社の役員も必ず現場に足を運ぶことを大切にしています。それは、現場に情報という宝の山があるからです。最近は、中国やアジアの拠点に頻繁に顔を出していますが、トップが行くと、現地の士気も大きく上がるということも実感します。