大室正志
大室正志(おおむろ・まさし)/大室産業医事務所 産業医。産業医科大学医学部医学科卒業後、産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社、医療法人社団同友会を経て現職。専門は産業医学実務。現在は、日系大手企業や外資系企業、ベンチャー企業、独立行政法人など約30社の産業医業務に従事している Photo by Yohei Kurihara

大室 確かに、ここ数年で『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)が大ベストセラーになったけど、簡単に言ってしまえばあの本は、“承認欲求”を否定しているわけです。「人にどう思われようと関係ない、自分の人生を生きよう」と。ただそれは現実の裏返しで、多くの人が承認欲に駆られてしまっているということ。SNSによって「大学の同級生が偉くなっている」とか「会社の同期で早々に退職したやつが、転職先で活躍してる」とか、比較対象が無限に広がってしまったことが「すぐ辞める若手」の一因かもしれないと思っているんです。

 昔は上司や先輩から多少の鉄拳制裁があろうが、「修業の身だから仕方ない」みたいな期待値コントロールができていたけど、今なら「親父にもぶたれたことないのに!」とアムロ・レイが憤るまでもなく、即パワハラでアウト。だから、自分の職場や環境と周囲を照らし合わせて、他の環境を求める人が多いのも無理はない。正能さんのように、自分で何もかも決めて、自分の人生を生きる人はなかなかいませんよ。

最優秀賞ではなく
審査員特別賞を目指したい

正能 私だって、あまり優秀な人間ではないです(笑)。以前勤めていた広告代理店でエクセル研修を受けていたとき、他の参加者は、前の週にやったことをしっかり覚えているのに、私だけほとんど忘れていて。「あぁ、自分ってこういうことは苦手なんだ」と明確に気づきました。優秀な人が当たり前にできていることが自分はできないということは、これまでの人生でも結構ありました。

 だから、「最優秀賞」ではなく「審査員特別賞」を目指して生きていこうと思っています。優秀さで勝ち上がろうとは思っていないし、そもそも誰かに勝とうとも思っていない。だから「すごいね」とか「偉いね」って縦軸で評価されても、イマイチ響かないんです。むしろ「面白いね」「いいね」とか横軸で認められるとうれしい。

大室 じゃあ上司から「よくやったな」と褒められても、響かないんだ。

正能 響かないというか、あまり興味がないです。それは縦軸の話かつ、あくまで社内での話じゃないですか。あ、でも、けなされるよりは褒められる方がうれしいですよ(笑)。たまに「社長賞を取りました」とSNSにアップして、「いいね!」をもらっている人がいるけど、私は社内的に認められた事象を「社会的に認められた」と勘違いしてしまうのは、危ういなと感じます。社内的期待値と社会的期待値は必ずしも一致していないはず。