味が良いから「あじ(鯵)」……。
下手な駄洒落のようですが、かの新井白石――江戸時代中期の政治家で儒学者――が享保2年(1717年)に書いた『東雅《とうが》』という語源辞典の中で、「或人の説く鰺とは味也、其の味の美をいふなりといへり」と書いているのですから大真面目な話。
新井白石の功績とネームバリューからか、今日ではこの説が広く採用されていますが、他に、鯵が群れをなす習性から、群がり集まることを「あち」といい、これが「あぢ」に変わり、「あじ」になったという説があります。
実は、漢字の方の鯵にはさまざまな説あり、「魚」偏に「参」となったのは、鯵が参集する(群れる)魚だからという説が、有力候補の一つになっています。
また、寛永20年(1643年)に刊行された、我が国最古の料理の専門書『料理物語』では、鯵は「魚」偏に「良」と書いて、「あち」と読ませています。
【材料】豆鯵か小鯵…1パック/鷹の爪…1本/長葱…2本/出汁…1カップ(200ml)/酢…3/4カップ(150ml)/砂糖…大さじ2/醤油…大さじ2/揚げ油…適量/片栗粉…適量
【作り方】①鯵は内臓を取り、水洗いして水気を切り、キッチンペーパーなどで残った水気を拭き取る。鷹の爪は種を取って小口切りに。長葱は3~4cmに切って焼き色がつくまで焼く。②鍋に出汁、酢、砂糖、醤油を沸かし、冷めたら鷹の爪と焼き葱を入れる。③鯵に薄く片栗粉をまぶし、170℃の油でじっくりと揚げる。泡が細かくなったら油を切り、2に漬ける。
いったい、味が良いからなのか、群れるからなのか……。
語源の決着はなかなかつきそうにありません。
いずれにせよ、これから夏に向けて旬を迎える鯵は、青背の割にはクセがなく、縄文の昔から日本人に愛されてきた魚です。