実際問題、個としての能力やネットワークをうまくビジネスの中で生かせる職種や業種もさほど多くない。僕が以前いた製薬業界なんてまさにそうで、典型的な規制産業ですから、創薬ベンチャーの研究者などは別として、個人で飛び抜けたところであまり意味がないわけです。

正能 そういう業界に居続けるなら、異質であり続ける資格はないと思っています。異質であることによって能力を発揮できなかったら、それってただの「変な人」じゃないですか。それは迷惑だし、コストでしかない。それならその業界になじむか、異質でいられる業界に移るかのどちらかが本人にとっても、組織にとっても幸せだと思います。

大室 企業側は「ダイバーシティー&インクルージョン」を推進しようとはしているけど、セミナーとかで「ダイバーシティー推進担当なんです」と名刺交換する人たちがことごとく「ママで子ども2人育ててます」みたいな人ばかりなんだよね。全然ダイバーシティーじゃない(笑)。少なくとも、現状は男性中心のモノカルチャーに対するカウンターとしての意識づけで、本当のダイバーシティーまでにはまだ道のりは長い気がします。

正能 ダイバーシティーの均質化(笑)。でも結局は属性にかかわらず、それぞれにいいところ、相性の合うところがあって、気になるところもあって、お互いが許せる範囲であれば関係は成立するじゃないですか。上司と部下もベーシックなところは同じで、「人対人」の関係性を築くことが重要になってくるんだと思います。

フィードバックのない
関係性はあり得ない

大室正志
大室正志(おおむろ・まさし)/大室産業医事務所 産業医。産業医科大学医学部医学科卒業後、産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社、医療法人社団同友会を経て現職。専門は産業医学実務。現在は、日系大手企業や外資系企業、ベンチャー企業、独立行政法人など約30社の産業医業務に従事している Photo by Yohei Kurihara

大室 「人対人」の関係構築と言われても、多くの中間管理職は内心、「つべこべ言わずに、黙ってやれ」と思っているはずですよ。「おまえは部下なんだから」って。今はヒエラルキー型組織って何かとやり玉に挙がるけど、昔は一定の合理性はあったわけです。ルールがはっきりしているゲームを勝ち抜こうとするなら、コミュニケーションコストを抑えることができるヒエラルキー型の方が圧倒的に生産性も高かった。

 ただ、それがいきすぎると「後ろからタックルしてつぶしてこい」とかおかしなことになるんです。今は知識産業が中心となってきて、ゲームのルール自体が変わるような時代だから、1人ひとりが自分の頭で考えて自律的に動くことが必要になってきた。とはいえ、全員が「そのタックルって意味あるんですか?」と傍観者になってしまうと、実行力が弱まってしまう。ヒエラルキーとフラットの中間くらいのバランスで組織運営していくのが、現実的なのではないかと思います。