習近平は談話において次のように指摘する。

「“一国二制度”の台湾における具体的実現形式は台湾の現実的状況を十分に考慮し、両岸各界の意見や提言を十分に吸収し、台湾同胞の利益や感情を十分に重んじるだろう。国家主権、安全、発展利益を確保する前提で、平和的統一後、台湾同胞の社会制度や生活方式は十分な尊重を得るし、台湾同胞の私的財産、宗教信仰、合法的権益も十分な保障を得るだろう」

 しかし、台湾の当局や人々がこの言葉を真正面から信じるとは到底思えない。とりわけ、近年香港社会に“浸透”する中国共産党の政治的圧力を台湾人は“明日はわが身”の姿勢で眺め、警戒心を強めている。“浸透”の一例として、筆者自身、これまで香港で書籍を出版してきたが、以前と比べて政治的に敏感な書籍の出版があからさまに難しくなっていると感じている。

結果的に民主化するのが
ベスト・プラクティス

 習近平政権が成立して間もない、台湾でまだ馬英九総統率いる国民党が与党だったころ、中央統一戦線部で対台湾政策に長年関わってきた党の幹部と「いつどのように台湾を統一するのか」に関して話を聞いたことがあった。この幹部は次のように答えてきた。

「決して今ではない。近い将来もないだろう。仮に統一したとして、どのように統治するのか。台湾が中国大陸の政治制度を受け入れることも民主選挙を放棄することもあり得ない。仮定の話だが、仮に統一後、中国全土で中国国民党と中国共産党が選挙で与党の座を争ったとしよう。おそらく共産党は負けるだろう。国民党の中国大陸における人気と影響力はいまだ健在だ」

 筆者は2015年に出版した『中国民主化研究ーー紅い皇帝・習近平が2021年に描く夢』(ダイヤモンド社)にて次のように記述している。

「中国との付き合い方という文脈において、台湾が法治・自由・民主主義といったルールや価値観を守るべく、市民社会の機能を駆使しつつ、みずからの政府を徹底監視し、自覚と誇りを持って奮闘する過程は、対岸の中国が民主化を追求するうえでポジティブな意味合いを持つ。

 なぜなら、台湾が中国と付き合うなかで、政治体制やルール・価値観といった点で中国に取り込まれる、すなわち台湾が“中国化”していくことは、中国共産党の非民主主義的な政治体制が肥大化しながら自己正当化する事態をもたらし得るからだ。その意味で、同じ中華系に属する社会として、民主化を実現した歴史を持つ台湾、そしてそこに生きる人々が果たす役割は大きい」(394〜395頁)