ケーブルテレビ会社のジュピターテレコム(J:COM)が電話事業に新規参入したのは1997年のことだった。当時のNTTは、技術供与などで協力を買って出た。その裏には、独占批判をかわすためという理由があったのだが、いまやNTTにとって、J:COMは無視できない存在になった。ケーブルテレビの範疇を超える総合メディア企業として、確固たる地位を築いているからだ。(取材・文/『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨 仁)

通信と放送の融合を先取りする
ケーブルテレビという第三の軸

 「社長、6時間でっせ」

 J:COM福岡のある営業マンは、94歳の加入者から「使い方がようわからん」という連絡を受けて、すぐに“TVお助け隊”として自宅へ向かった。

 このお爺さんは、ケーブルテレビの「時代劇専門チャンネル」で、往年の作品を見ることを楽しみにしていた。さらに、好きな番組をビデオ録画すれば、繰り返し楽しめると考えた。

 ところが、頭では番組をビデオ録画するということが理解できても、自分が見たい1週間後の番組を録画予約する操作方法がわからなかった。

 担当の営業マンは、自分の判断で現場にとどまり、お爺さんに録画の操作を、6時間かけて懇切ていねいに説明した。その報告を聞いた北川文雄社長は、「ようやった!」と肩をたたいて労った。

 その行為自体は売り上げにはならないが、企業としての“地域密着活動”の一環なので、手を抜かない。

 北川社長は、「アフターサービスなので、助けに行くことは無料。なかには、感謝の気持ちを包んでくださる方もいるが、現金を受け取ってはダメ」と力を込める。

 もとより、J:COM福岡では、高齢の加入者には定期的に電話で連絡を入れている。地区の担当者から電話する場合もあれば、反対に加入者から電話をもらう場合もある。

 いずれにせよ、なにかあれば、小型自動車、小型バイク、自転車などで担当者が緊急出動する態勢が整えられている。