朝日杯の二連覇を最年少で達成
藤井七段の驚くべき快進撃
「史上最年少」という枕詞を忘れてしまう。長年、第一線で活躍しているトップ棋士としか思えなくなってきた――。将棋の藤井聡太七段(16)が、またもや金字塔を打ち立てたのである。
藤井七段はまだ中学生だった昨年、朝日杯将棋オープン(朝日新聞社主催)に出場し、国民栄誉賞を受賞した直後の羽生善治(当時48・棋聖、竜王の二冠)を準決勝で、広瀬章人九段(現竜王・32)を決勝で破って初優勝し、話題をさらった。2月16日、筆者は今年の朝日杯将棋オープンを取材すべく、再び神戸から有楽町へと出かけた。
藤井は、準決勝で行方尚史八段(45)、決勝で渡辺明棋王(34)を撃破し、二連覇した。同杯は今年が12回目と歴史は浅いものの、これまで二連覇は羽生九段だけ。藤井の優勝も、もちろん最年少記録だ。
朝日杯は名人位や竜王位のようなタイトルではないが、全棋士、強豪アマ、女流棋士らが参加して勝ち抜き戦を戦う一大イベント。本戦に残った16人は錚々たるメンバーだった。特徴的なのは公開対局であること。この日も入場料を払ったファンが列をつくった。
通常、プロの対局は双方の初手までのカメラマンの撮影後は、立会人と記録係しか部屋に入れない。だが、ここでは壇上の椅子、テーブルで戦うスター棋士の生の対局を観戦できる。将棋盤は見えないので、スクリーンに映し出される。
準決勝は藤井vs行方、渡辺vs千田翔太六段(24)の二局が同時進行し、渡辺は千田に快勝。藤井は中盤、行方が端歩を突いたやや甘かった手を逃さず、一気に行方陣営になだれ込み、最後は桂馬の王手で投了させた。
午後2時半からいよいよ決勝。背広姿の藤井はいつものように、ペットボトルの紅茶(?)を飲む。振り駒で渡辺が先手番となり、互いに「雁木囲い」(雁の群れがジグザグになって空を飛ぶ姿に似ることから名づけられた)という駒組が進む。藤井は序盤こそ押されたが、これを凌ぐと中盤からは一方的と言ってよい展開だった。渡辺は後ろにのけぞったり、扇子を口に入れたり、徐々に落ち着かなくなる。午後4時52分の128手目。藤井が4つとも持っていた銀の1つで王手をかけると、渡辺は「負けました」と頭を下げた。