昭和の時代にはさまざまな分野にあった「師弟関係」だが、時代が変わり、今やその姿はほとんど見られなくなった。ところがそんな「師弟関係」を、今も大切に守り続けている世界がある。プロ棋士の世界がその一つだ。(ライター 根本直樹)
“寿司職人が何年も修業するのはバカ”
ホリエモン炎上騒動に見る師弟関係の現状
あなたに「師」はいるだろうか。あるいは「弟子」のような存在がいるだろうか。
昭和の時代まで、世の中には「師弟関係」が今よりもずっとあふれていたように思う。芸道や武道といった特殊な世界だけでなく、学校や会社、地域社会の中にも、その精神性は広範に存在していた。
例えば組織の中で、上司と部下が目先の仕事や利益を超えたところで、師弟と呼べる関係を結ぶことは普通にあることだった。刑事ドラマでは、たたき上げのベテラン刑事を師と仰ぎ、その背中を見て成長していく若手刑事の姿がよく描かれるが、これなどまさに市井における師弟関係というものだ。
本来、師弟関係とは、経験によって培われた知識・技能などを伝授して受け継いでいく関係のことだが、あらゆる分野にマニュアル化、効率化、合理化、IT化の波が押し寄せた結果、今ではその概念は形骸化し、消滅しつつあるようだ。昨今は刑事の世界も、ベテラン刑事の勘よりも捜査マニュアルとデータ主義が幅を利かせるようになり、そこに師弟関係の入り込む余地は失われつつある。