山極寿一著
(東京大学出版会/2012年)
AI(人工知能)が人間の知能を超えるどころか人間の文化を破壊してしまう危険性に警鐘を鳴らす本である。人間の最も古い文化的な装置である家族が、危機に瀕しているからだ。著者は、ゴリラが専門の霊長類研究の第一人者。
霊長類の子育てはさまざまだが、その中でホモ・サピエンス(現生人類を含む種の学名)は、家族の仕組みを確立して進化した。その際、大切だったのが、ゴリラに見られるような対面や接触を通じての共感や、同情を共有するコミュニケーションだった。それに比べれば、言葉はよほど歴史が浅い。ところが、電子メールやスマートフォンの登場が、対面や接触が希薄な言葉だけのコミュニケーションを生み出し、現代人の心と体に軋みをもたらしているという。
(国家公務員共済組合連合会理事長 松元 崇)